【特集】ダン・コロフ国際大会熱戦写真集&チームの声



 2月13日から欧州遠征していた男子フリースタイルの全日本チームは3月6日、ブルガリアの「ダン・コロフ国際大会」に出場して全日程を終了した。トルコで「ヤシャドク国際大会」に出場したあと、ブルガリア・ソフィアへ移動して地元チームほかと合同練習。最後の仕上げとして大会に出場した。

 和久井始監督(自衛隊)は「両大会で優勝、メダル獲得選手を出すことができ、成果はあった。松永は田南部力の下にいて世界選手権出場の機会もなかったが、世界でもメダルを取る力があることを証明してくれた」と、大会の成績にまずは合格点。上位入賞を逃した選手も、大きな差があるわけではなく、「ちょっとした工夫があれば勝てる試合が多かった。外国選手は、確かに力は強いが、力で対抗するのではなく、力をうまく使って対抗する方法を見つけ出せれば勝てると思う」と、今回の経験をもとに、帰国してから工夫した練習に取り組んでほしいと注文した。

 大会では、1試合ずつしかできなかった選手もいたが、合宿中に大会さながらの試合も組んでもらい、1人あたり7〜8試合をこなした。「スパーリングでは味わえない緊張感があってよかった」(和久井監督)と、単に大会に出るだけではなく、合宿を実行した効果もあったと話した。

 和久井監督、和田貴広・日本協会専任コーチともに、外国で新ルールを初めて経験することになり、「実際に見たことで、今後の練習の指針ができた」(同)と、撮影したビデオを分析しながら、新たな練習方法を模索するという。

 ある選手が何気なしに「(次に戦う)あの選手、世界3位なんだよな〜」と口走ったところ、和田コーチが「だから何なんだ!」と一喝する厳しさも見せ、“負け犬根性”の排除も。厳しい3週間をすごした選手たちの今後の飛躍が期待される。

 各選手の大会成績などは下記の通り。(松永共広は別項)


 【55kg級】稲葉泰弘(専大)

◎ヤシャドク国際大会
 1 回 戦 ●[0−2(3-3,2-3)] Tekin Soyar(トルコ)

◎ダン・コロフ国際大会
 1  回 戦   BYE
 2  回 戦  ○[2−1(3-5,1-1、TF6-0=1:54)] Tekin Soyer(トルコ)
 準 決 勝  ●[0−2(0-1,0-1)] Besik Gochashivili(グルジア)
 3位決定戦 ●[0−2(0-1=2:15,0-1)] Ramazan Demir(トルコ)


 ○…全日本選手権3位の実績で遠征に参加することになった稲葉は「こんな長い遠征は初めて。疲れましたけど、いい経験になりました」と、約3週間にわたる遠征を振り返った。

 外国選手の戦い方はパワーに頼ってガツガツ押してくることを感じた。「日本では経験したことのない圧力です。試合では、手首をつかまれて、離そうとしても離してくれないくらいがっちりつかんでくるので、うまく組み手ができなかった」と振り返る。それでもダン・コロフ国際大会で1勝を挙げることができ、練習を積んだ成果はあった。「ここでの経験を生かし、ユニバーシアードの予選で頑張りたい」と、飛躍を誓っていた。

 【60kg級】小島豪臣(日体大)

◎ヤシャドク国際大会
 1回戦 ●[1−2(8-3,1-3,3-3)] Bicer Mustafa(トルコ)

◎ダン・コロフ国際大会
 1回戦 ●[0−2(0-1,1-5)] Didier Pais(フランス)

 ○…アテネ五輪銅メダリストを破って全日本チャンピオンに輝いた小島だが、今回の2大会はともに初戦敗退。ヤシャドク国際大会ではポイントも取って1ピリオドを先取したが、ダン・コロフ国際大会では常にリードを許して0−2で終わった。

 「自分のレスリングができずに終わった。先にポイントを取られて焦った。内容も覚えていない」。全日本選手権では、常に先行して勝っていた。リードされた時の気持ちの持ち方や対処の仕方が分からなかったようで、飛び出した新星も意外な弱点があった。これの克服は、「試合を意識したスパーリングをすることですね」。

 外国選手はタックルに入ってからも粘り強く攻撃を続ける強さがあると感じた。「日本選手とだけ練習していては世界で勝てない」と、今後、多くの国際経験を積みたいことを口にし、「今のうちに悪いところを全部出して、直していきたい」と言う。試合での結果は出せなかったものの、多くの課題が見つかった貴重な遠征になったようだ。


 【60kg級】湯元健一(日体大)

◎ヤシャドク国際大会
 1回戦 ●[0−2(0-4,1-4)] Eldar Misirov(ロシア)

◎ダン・コロフ国際大会
 1回戦 ○[2−0(2-0,2-0)] Mustafa Bicer(トルコ)
 2回戦 ●[0−2(1-1,0-4)] Koba Kakaladze(グルジア)

 ○…稲葉と同じく全日本3位が評価されて全日本のメンバーに加わった湯元は、「初めて全日本チームに入れてもらい、小さくなってしまいました。もっと堂々と試合をしなければならなかった」と反省。マットに上がっても、今ひとつ自信が持てなかったという。

 しかし、試合をこなしていくうちに徐々にだが自信めいたものもついてきたそうで、「日本でやっているより、負けられないという気持ちが出てきた」とも。ジャパンジャージを着ての経験を積むことで、ひと回り大きくなれたようだ。

 合宿の練習では、しっかり技をかける必要性や、点をやらないための集中力などを学んだ。外国選手は粘りのある体の柔らかさがあるうえでパワーもあるが、「そう大きな差があるとは思えない。勝てないことはない」と言う。「これからは世界へ目を向けて練習していきたい」と、気持ちの変化が出てきた遠征だった。


 【66kg級】金渕清文(国士大助手)

◎ヤシャドク国際大会
 1回戦 ●[1−2(1-0,1-1,1-1)] 池松和彦(日本)  

◎ダン・コロフ国際大会
 1回戦 ●[1−2(0-1=2:28,2-0,1-1)] Mihail Ganev(ブルガリア)

 ○…ヤシャドク国際大会での池松和彦(大学院の試験のため遠征途中で帰国)との日本人対決を含めて2戦2敗と結果を残せなかった金渕は、結果以上に課題だった1点を取ってからの展開が克服できずに、不満の残る遠征となった。

 ポイントを先制されても逆転されてしまうことがあり、ダン・コロフ大会でも第3ピリオドのラスト20秒でポイントを取られて試合を落としてしまった。「池松との試合もそうでした。最後に守ろうという気持ちが出てしまうんですね。もう1点、という気持ちで戦わなければなりません」。先制点を取る力はあるだけに、リードを守り切ることができない弱点を克服したいという。

 ただ2週間の合宿で、「世界で戦えるという感触は得た」という。自らの技術は世界の選手と比べても遜色ないことを実感。それだけに勝つための戦術のマスターが課題となりそうだ。

 4月からは教員として青森県に帰ることになり、練習環境は悪くなるは、秋田県で教員をやりながらアテネ五輪出場を果たした横山秀和の例もある、「今年こそは世界選手権に出たいです。練習環境を言い訳にせず頑張りたい」と、今後は練習の質で勝負−。


 【74kg級】小幡邦彦(ALSOK綜合警備保障) 

◎ヤシャドク国際大会
 1 回 戦  BYE
 2 回 戦 ○[2−0(0-1,1-0,4-3)] Kiril Terziev(ブルガリア)
 3 回 戦 ●[0−2(0-1,0-1)] Mohammadi Mocid(イラン)

◎ダン・コロフ国際大会
 1 回 戦  ○[2−1(1-0,1-3,5-1)] 高橋龍太(日本)
 2 回 戦  ○[2−0(1-0,1-0)] Benali Rachid(フランス)
 準 決 勝 ●[1−2(0-1,1-0=2:15,0-1=2:14)] Nilolay Paslar(ブルガリア)
 3位決定戦 ○[2−1(2-1,0-1,1-1)] David Akhalmosulishivili(グルジア)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 ○…池松和彦が途中で帰国したため、チームで唯一の五輪経験者となった小幡がダン・コロフ国際大会で銅メダルを獲得。同じALSOK綜合警備の松永共広が前日に優勝していただけに、チームの柱としての意地を見せた。

 しかし、優勝を目標にしており、「準決勝は勝っていた試合。集中力が足りなかったかも。勝って大会を終えたことはよかったけど…」と、手放しでは喜べない結果。準決勝の相手の01年69kg級世界チャンピオン、ニコライ・パスラー(ブルガリア)は体中にオイルを塗っており、足を取ってもすべってしまったという。

 第3ピリオドのクリンチ(小幡が攻撃)では、フライング気味に小幡の腕から脱出。審判も地元選手に勝たせようという意図がありありで抗議も却下され、納得できない結果だったが、小幡は「オイルを塗ってでも勝ちにこだわる執念を感じました。この気持ちが大事なんですね」と、意外にも相手を“評価”。オイルはともかく、何が何でも勝つという姿勢に感じるものがあったようだ。

 3位決定戦の相手も変わったタックルを使う変則タイプの選手だった。合宿での8試合の練習試合を含めて多くの選手の戦うことができ、「いい経験ができた遠征だった」と振り返った。2分以内にポイントとること、そのために組み手とタックルの練習を積み、5月のアジア選手権に臨みたいという。松永との相乗効果で好成績が期待される。

 【74kg級】高橋龍太(自衛隊)

◎ヤシャドク国際大会
 1回戦 ●[0−2(0-5,3-5)] Hakki Ceylan(トルコ)

◎ダン・コロフ国際大会
 1回戦 ●[1−2(0-1,3-1,1-5)] 小幡邦彦(日本)

※写真は小幡の項、参照

 ○…「できたら外国選手と試合をやりかたった」と高橋。全日本チャンピオンの小幡は乗り越えなければならない壁で、1ピリオドを取っただけでも全日本選手権(0−2で負け)より力をつけたことになるが、海外遠征した以上は外国選手相手に自分の実力を試してみたかったというところだろう。

 ヤシャドク大会では、タックルをはね返された。合宿では外国選手にパワーで負けることを痛感し、タックルに入ってからの動きなど技術面でも学ぶことが多かった。パワーでも技術でも劣ってしまっては、そうそうポイントは取れない。「足りないだらけに気がつきました。まじまじと。それに気がついたことが成果です」と合宿を振り返り、今後の練習課題にしていきたいという。


 【84kg級】磯川孝生(拓大)

◎ヤシャドク国際大会
 1回戦 ○[2−1(0-1,2-0,2-0)] Fatih Terziev(トルコ)
 2回戦 ○[2−1(1-1,1-0,2-0)] Adjzev Aznavur(ロシア)
 3回戦 ●[1−2(0-1,2-1,0-2)] Osman Ozgan(トルコ)

◎ダン・コロフ国際大会
 1回戦 ○[2−0(4-3,4-0)] 松本真也(日本)
 2回戦 ●[0−2(0-1,1-1)] Eslami Abazar(イラン)

 ○…トルコとブルガリアの2大会とも上位入賞ならなかった磯川は「新ルールに対する練習が必要です」と2大会を振り返った。合宿での練習試合を含めて場外際でもつれて押し出されることが多く、このあたりを克服したいという。パワーで押し出されるとは感じておらず、自らの身のこなしがしっかりできないことが原因の様子。まだ新ルールに慣れていないためだろうが、「課題が分かってよかった」と言う。

 ダン・コロフ国際大会では国内のライバル、松本真也に勝って、昨夏のインカレ決勝で負けたリベンジを果たしたが、「外国選手に勝たないと…」と、特にうれしそうなふうでもなく、あまり眼中にない様子。「外国選手と戦うことを想定しての練習が必要です。このままの練習では世界に追いつかないことが分かった。考え方を変え、自分で考えて練習をしなければなりません」と、目標はあくまでも“世界”におき飛躍を目指す。


 【84kg級】松本真也(日大)

◎ヤシャドク国際大会
 1回戦   BYE
 2回戦  ○[2−0(1-0,1-0)] Nuri Zengun(トルコ)
 3回戦  ●[0−2(?)] Gokhan Yavaser(トルコ)
 敗復戦 ●[0−2] Ziya Kambar(トルコ) 

◎ダン・コロフ国際大会
 1回戦 ●[0−2(3-2,0-4)] 磯川孝生(日本)

※写真は磯川の項、参照

 ○…84kg級の学生王者の松本は、大学の試験の関係で学生選抜の米国遠征(2月上旬)を辞退したので、これが今年初の遠征。「身になる遠征でした。練習試合を含めて何試合もできたし、コーチから欠点を指摘され、自分で気がついたりもできた」と振り返った

 欠点が見つかっただけではなく、外国選手相手の方がタックルに入りやすいことも分かった。練習試合で勝った選手がダン・コロフ国際大会の上位に入っており、「やればできる」と、世界で戦っていく感触を得たようだ。

 それだけに国内でのライバルである磯川戦の敗戦は悔やまれる。「抽選引いた時に『うわー』という気持ちでした。これから何度もやる相手だけど、ここでやることないでしょ、と」。本人は否定したものの、その気持ちが試合に出てしまったか? 「仕方ない。日本で1からやっていくしかない。遠征で体が小さくなったので、体つくりからやり直す」という松本に、「次の目標はユニバーシアードの予選(3月31日)?」と向けると、「いえ、長い目で強化していきます」−。


 【96kg級】小平清貴(警視庁)

◎ヤシャドク国際大会
 1回戦 ●[0−2(0-1,0-3)] Dimitar Kumthev(ブルガリア)

◎ダン・コロフ国際大会
 1回戦 ●[0−2(0-1,1-3)] Robatmoradi Alireza(イラン)

 ○…チーム最年長、主将として若い選手を引っ張る小平は、2大会ともに初戦敗退。「主将として、この成績は悔しいし情けない。自分が引っ張らなければならないのに…」と唇をかんだ。

 これまでの得意な攻撃パターンは、パーテールポジションからのまたさきやローリング。ルールが変わってその攻撃が使えなくなり、今のスタンドの攻撃力では外国選手相手に通じないことを実感した。分かってはいたが、国内で勝つことができたため、気持ちが完全に切り替わらなかったようで、「レスリングそのものを変えていく必要を痛感しました」と言う。

 「外国選手はパワーがあり、お尻がどしっとして足の重さもある。その足を刈ってでもスタンドでポイントとる方法を身につけたい」。課題がはっきりと認識できただけでも有意義な遠征となった。アジア選手権(5月、中国)での巻き返しにに期待したい。


 【120kg級】田中章仁(専大)

◎ヤシャドク国際大会
 1  回  戦 ○[2−0(3-3,3-3)] Mehdi Baghbanian(イラン)
 準 決  勝 ●[0−2(0-2,0-1)] Saban Yilmaz(トルコ)
 3位決定戦 ○[フォール、1:25] Sefa Ungor(トルコ)

◎ダン・コロフ国際大会
 1  回  戦  BYE
 2  回  戦 ○[2−1(3-1,0-1,6-1)] Fatih Cakirogu(トルコ)
 準 決  勝 ●[フォール、2P?] Biser Deianov(ブルガリア)
 3位決定戦 ●[0−2(TF0-6=1:47,TF0-6=1:29)] David Musulbes(ロシア)

 ○…ヤシャドク国際大会で銅メダルを取った田中は、その大会で左ひざを痛め、その後の合宿では全力でできず、右ひじも痛めてしまうアクシデント。ダン・コロフ国際大会の最初の試合でこそ動けたが、あとの2試合は思うように動けなかった。そんな状態ででも「1勝したから、まずまずです」と振り返った。

 3位決定戦のムスルベス(シドニー五輪王者)戦は「気持ちで負けていた」と言うが、それでも片足を取って持ち上げるシーンもあり(結局は0点)、何もしないまま終わったわけではない。

 「前から分かっていたけど、体力面が劣っている。外国選手は圧力がすごく、押されると回り込めないくらいの強さ。パワーをつけるか、パワー不足を補えるものがほしい。筋肉でもう少し体重をつけたい」と、引き続きパワー養成へ励む。



《前ページへ戻る》