【焦点】五輪種目としての存続に必要な普及と人気獲得の努力



参考記事 ⇒ 2002年8月30日 2002年9月3日 2003年2月22日 
        
        2003年6月30日 2003年7月15日 2003年10月19日


 7月6〜9日にシンガポールで行なわれた国際オリンピック(IOC)の総会で、2012年の五輪開催地がロンドンに決まるとともに、同大会におけるレスリングの実施が正式に決まった。

 レスリング界の今後の大きな焦点は、9月の理事会で決定される実施種目(階級)の問題だ。ここで論議されるのは2012年ロンドン五輪での実施種目のこと。2008年北京五輪に関しては、「アテネ五輪の同じ競技・種目」とされており、「男子14階級・女子4階級」は決定済みとの報道もあるが、アテネ五輪での「レスリング=男女で18階級」が決まったのが2001年9月のIOC理事会だったことを考えると、北京五輪での実施種目が正式に決定するのは今年9月の理事会と予想される。レスリング界にとっては注目しなければならない理事会となる。

 IOCはレスリングの18階級を「多すぎる」と判断しており、2002年にはプログラム委員会が階級削減か男子のどちらかのスタイルの削減を要求してきた。一方、国際レスリング連盟(FILA)のラファエル・マルティニティー会長は男子両スタイルの存続と女子の7階級実施を目指して「IOCと戦います」と明言。アジア大会やユニバーシアードでの女子実施に全力を傾けて実現するなど、実績づくりに大きな貢献をしてきた。

 今回の総会で、2012年ロンドン五輪で野球とソフトボールが除外されたことは、レスリング界にとって追い風となる可能性はある。新たに加わる競技はないので、IOCジャック・ロゲ会長の提唱する「28競技1万500人」という理想の規模から空き枠ができたことになるからだ。

 もちろん、空き枠がレスリングにまわってくる保障はどこにもない。18階級を「多すぎる」と明言しているのだから、今後も階級の削減を要求してくる可能性は高い。

 今回の総会で、大方の予想に反して野球とソフトボールが実施競技からはずれた。これは五輪競技・種目には“既得権”が存在しないことを意味し、いくらレスリングが第1回大会から実施されている競技だといっても、人気がなく普及が進んでいなければ、容赦なく切り捨てられることを意味する。

 今回は生き残ったものの、レスリング界は決して安閑としてはいられない。確かに153の国と地域が国際連盟に加盟している大きな組織ではあるが、階級削除を要求されていることがマイナースポーツと解釈されている何よりの証明。ビッグイベントで会場が満員になる国は米国、ロシア、イランなど数えるほど。APやロイターといった世界規模の通信社が報じるレスリングの記事は驚くほど少ないし、アフリカでの普及は、野球やソフトボールほどではないにしても、本格的に実施している国は10か国たらず。オセアニアでも普及が進んでいるとは言いがたい。

 2016年大会以降の実施競技は、今回と同じくすべての競技で実施か除外かをIOC総会で投票して決めることになった。サマランチ前会長の時代に言われてきたような“米国テレビ局の影響”など存在しない。

 レスリングが五輪種目として存続し、確固たる地位を占めるために、そして現在、最も重要な課題である「男子両スタイルの存続と女子7階級の実施」へ向けて、世界のレスリング界はこれまで以上に普及と人気獲得に力を注がねばならない。

(文=樋口郁夫)



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