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【特集】不本意なブランクを乗り越え、激戦階級に挑む…男子フリースタイル60kg級・前田翔吾(ニューギン)【2010年4月28日】

(文=増渕由気子、撮影=保高幸子・矢吹建夫)
 

 9月の世界選手権(ロシア)と11月のアジア大会(中国)の日本代表選考を兼ねた明治乳業杯全日本選抜選手権(5月1〜3日、東京・代々木競技場第2体育館)。激戦が予想される男子フリースタイル60kg級に、ディフェンディング王者として“あの男”が戻ってくる。

 昨年のデンマーク世界選手権で、初出場にもかかわらず55kg級の元世界王者ディルショド・マンスロフ(ウズベキスタン)に善戦して5位入賞を果たした前田翔吾(ニューギン=当時日体大4年、
左写真)。世界選手権に先立つ5月のアジア選手権(タイ)でも、韓国の北京五輪代表に勝って5位の成績を収めていた。

■練習だけに専念した半年間の答を出す!

 連覇を狙った昨年の全日本選手権は、部員の不祥事のためチームが出場停止処分を受けてしまった。昇り竜の活躍ぶりだっただけに、悔しい思いをした。

 少人数での自主練習は許されたものの、全日本大学選手権と全日本選手権の2大会を棒に振った。不祥事が明るみに出る前にあった全日本学生選手権や新潟国体は、世界選手権と同時期に行われたため出場していなかった。「国内での大会は約1年ぶりになりますね」。久々の国内戦に燃えている。

 前田は、空白の半年間を「今は、この半年間が何だったのか何も言えない」と口元を引き締める。試合をしなかったことは、十分すぎるほど練習に取り組めたメリットもあるだろうが、実戦を経験できないマイナスもはかり知れない。モチベーションの問題もある。「試合に勝って、(2大会を棒に振ったことは)良かったと、思うしかない」と神妙に語った。

 男子フリースタイル60kg級は、2008年北京五輪で湯元健一(ALSOK綜合警備保障)が銅メダルを獲得。その湯元に勝って昨年の全日本選手権を優勝した小田裕之(国士舘大)が今冬のロシア遠征で銀メダル(ヤギリン国際大会)に輝くなど、日本一がそのまま世界のトップになれるというハイレベルな階級だ。

 逆に、世界で活躍できても日本一にならないと海外に出られない階級でもある。昨年、国内外で成績を残した前田だが、湯元の復帰や2006年世界3位の高塚紀行が自衛隊に所属を変更したことで、一段と厳しさを増している。小田の急成長によって、国内レベルがさらに上がっていることも痛感している。

■アジア5位、世界5位が自信になったのは一瞬だけ

 「世界で上位にいけて自信になったのは、世界選手権後の1週間ほどだけ」だったと言う
(右写真=マンスロフと激戦した昨年の世界選手権)。世界選手権の頃に北京五輪後の休養から復帰した湯元と練習場をともにする前田は、「湯元先輩はやはり強いです」と、日本一の道のりが楽ではないと悟った。

 湯元の長所は60kg級で飛びぬけたパワー。それに対抗するために「体幹を鍛えることをやってきた」。前田の長所は、手足の長さを生かした理詰めのレスリングができるところ。それを武器にライバルたちを押しのけられるか。

 前田は、全日本選抜選手権から約2週間後に行われるアジア選手権(インド)の代表にも内定している。「でも、まずは選抜選手権です。今年の世界選手権にも出たいですから」。あのマンスロフと対等に戦った前田。今年こそ、世界の表彰台に上がるためにも、日本一だけは譲れない。

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