【特集】憧れの元世界王者を破れず、無念の5位…男子フリースタイル60kg級・前田翔吾(日体大)【2009年9月23日】

(文=保高幸子、撮影=矢吹建夫)



 「とにかく疲れました…。正直、ここまでやれるとは思っていなかったので、実感がわきません」と、初出場の世界選手権で5位に入賞した60kg級の前田翔吾(日体大)。3回戦で北京五輪5位・今年の欧州王者のザリムカン・フセイノフ(アゼルバイジャン)に敗れたものの、敗者復活戦でアーチュー・アルケリャン(アルメニア)を自分のレスリングで下した。

 しかし3位決定戦では、55kg級で2度の世界チャンピオンになったディルショド・マンスロフ(ウズベキスタン)を攻め切れず惜敗(右写真)。高校時代に携帯電話の待ち受けにする程ファンだったというマンスロフを目の前にして気負ってしまった。夢の舞台で夢の相手という気持ちが抜け切らず、5位にとどまることとなった。

■競り勝った敗者復活戦だが、恩師からは厳しいゲキ!

 3回戦は悔しい負け方だった。第1ピリオド中盤、前田が2点を取った状態で相手がヒザ痛を訴え、試合が中断された。「このまま立たないでくれれば、と思った自分が悪かったと思います。それに、油断してしまって…」。試合が再開すると、相手が息を吹き返してポイントを重ね、結局4−7でこのピリオドを取られた。「自分のペースだったのに…。悔しいです。技術ではなくてメンタル面が弱かった」足を何度も触りながらポイントにつなげられなかったことは、結局は心の弱さだったようだ。

 敗者復活戦は3回戦と同じような展開になり、「絶対に負けたくなかった」という気持ちで粘り勝ちしたような試合だった。この試合、第3ピリオドの終了16秒前に3−3に追いつき、ラストポイントによって勝利を引き寄せた展開だったが、相手がラスト2秒の段階で試合を捨て、うずくまってしまった。バックに回れば1ポイント取れたが、3−3でも勝てるので前田は攻撃せずにガッツポーズ(左写真)

 これには観客席で見守っていた恩師の一人、栄和人・女子強化委員長(中京女大教)から雷を落とされた。「どうしてあそこで攻めないんだ! 最後まで攻めなければ駄目だ! とどめを差す気持ちが大事なんだ!」−。

 最後の最後まで攻める、その気持ちが勝負を左右するという恩師のゲキ。マンスロフとの差は、この気持ちの差だったかもしれない。

■ロンドン五輪までの残る2大会で、最低1度は金メダルを

 佐藤満・男子強化委員長(専大教)は「内容は悪くなかった。初めての大会でここまでできるなら、来年は面白いと思う。まだ経験が足りないかもしれないが」と語る。本人は「体の芯を強くしないと…」と、外国人選手との試合でパワーの違いを自覚した。しかし、まだ大学生。経験はこれから積んでいっても遅くはないだろう。
 
 課題を多く見つけた大会となったが、それでも、「敗者復活戦ではスピードとスタミナを生かして自分のレスリングができました。組み手とスタミナは誰にも負けていないな、と思いました」と収穫もあった。狙うは2012年ロンドン五輪。「(五輪までには)あと2回の世界選手権しかないので、1度は金を取っておきたいですね」と、目標もはっきりした(右写真:田南力コーチ=右=と小平清貴コーチに支えられた前田)

 高校時代に指導を受けた吉田沙保里選手(ALSOK綜合警備保障)からは「よくがんばった」と言ってもらったが、悔しさはつのるばかり。今回の経験を糧(かて)にすれば、次は吉田選手と同じ色のメダルを持って笑顔で並ぶというのも夢ではないだろう。


《iモード=前ページへ戻る》
《トップページへ戻る》
《ニュース一覧へ戻る》
《ニュース一覧(2008年以前)へ戻る》