「五輪王者に勝ったことあります」…74kg級・鶴巻宰(自衛隊)【2008年8月14日】






 男子グレコローマンの66㎏級と74㎏級が行われた北京五輪レスリング競技第2日は、初日に引き続き波乱の大会となった。74㎏級の決勝はアジア選手権優勝の常永祥(中国)と五輪予選第1戦で優勝したマヌチャ・クビルケリア(グルジア)の対戦。前日同様、昨年の世界トップ3はファイナルに残れなかった。

 決勝ではクビルケリア
(右写真)が底力を見せ、大歓声を敵に回すアウェーをものともせずに中国に完勝したその風景を少し複雑な気持ちで見つめる選手がいた。練習相手として北京へ来ていた74kg級の鶴巻宰(自衛隊)だ。20歳で全日本選手権を制し、北京五輪のホープとして期待されていた逸材だ。

 昨年の世界選手権では強豪ロシアを倒すなど、北京五輪へ順調なステップを踏んだが、12月の天皇杯全日本選手権で2位。今年3月のアジア選手権の代表になれず、5月の最終予選に2度トライしたが、出場権獲得はならなかった。

 今回は84㎏級代表の松本慎吾のスパーリング・パートナーとして北京に帯同していた鶴巻は、試合後にポツリと言葉を発した。「チャンピオンのグルジアには2006年の3月にブルガリアで行われたGPシリーズ(ニコラ・ペトロフ国際大会)で闘い、2-0(TF8-0,3-0)のストレートで勝っています」。なんと鶴巻は「北京五輪金メダリストより強い男」だった。

 同じく北京へ来ていた自衛隊の宮原厚次自衛隊監督は「誰だって五輪チャンピオンになるチャンスがあることが分かったはず」と、他のスパーリングパートナーたちにハッパをかけると同時に、鶴巻が選手として参加できなかったことに無念さを感じていた。

 当の鶴巻は「(予選を勝ち抜けず)北京五輪に出ていないので、そういう(グルジア選手より自分は強い)ことなど、言う資格はないです」と遠慮気味。それでも、今回は手が届かなかったオリンピックがグルジア選手の優勝で身近に感じられたようで、最後には「(自分もも)いけるんじゃないかな」と自信をのぞかせていた。

(文=増渕由気子)



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