【特集】男子の「銀1・銅1」を支えた川崎淳トレーナー【2008年8月23日】



 オリンピックの舞台でメダルを獲得するため、日々厳しいトレーニングに励む選手たち。彼ら・彼女らがベストの状態でマットに上がれるようにサポートする人がいる。その1人がトレーナーの川崎淳さん(右写真)だ。レスリング協会のスポンサーでもあるハンズコーポレーションに所属する川崎さんは、ふだんは和光市にある治療室で仕事をしている。

 川崎さんがレスリングに関わり始めたのは2003年にニューヨークで行われた世界選手権の時から。女子をやることも多かったが、今回は男子チームを担当することとなった。

 川崎さんは「始まってみると、あっという間でした」、自身初参加の五輪を振り返る。大会中は、選手の試合があるため、早朝に選手村へ行き、試合に出る選手をケアする。試合に選手を送り出したあと、午後になると再び選手村に戻り、翌日の選手のケアにあたる。一日のうちで当日出場する選手と翌日出場する選手をみるため、会場、選手村、宿舎と動きまわり大忙しの日々を過ごした。

 減量も選手の体に影響をきたす。「減量をすると足にきたり、背中や腰が張ってきたりという症状が出る。そのへんの張りを取るケアをします」。今回の五輪にあたっては、激戦となった春の五輪予選からずっとチームに接してきており、「どれだけの思いを持って選手がやってきているのかがわかる」。

 きつい練習に耐え、オリンピックに挑む選手をかたわらで見続けているからこそ、どんな場合でも常に川崎さんの頭の中にあるのは「試合のマットに選手が最高の状態で立てるようににしてあげたい」ということだ。

 「気遣いの人」。それが選手からみた川崎さんの印象だ。その様子が伝わるこんなエピソードがある。男子フリースタイル66kg級の池松和彦選手が減量をしていた時のことだ。壁のところでこそこそと人目をはばかるようにおかゆを食べている人がいた。その人こそ川崎さんだったのだ。

 選手が、減量中で食事を満足に食べられない時に自分だけむしゃむしゃと食べるわけにはいかない。池松選手は「選手を気遣うそんな優しさがある」という(左写真:日本選手の試合が重なった時にはセコンドにもついた=後方)

 北京五輪では男子フリースタイルで「銀メダル1個、銅メダル1個」と、前回のアテネ五輪の「銅メダル2個」という成績を上回った。「周りからの期待などもある中、選手はしっかりと結果を出してくれた。今までの疲れが吹っ飛びました」。少しでも役に立てたらと、選手とともに戦った川崎さんのオリンピックは確かな実を結んだ。

(文=藤田絢子、撮影=樋口郁夫)


《前ページへ戻る》