【特集】日体大が”北京オリンピック効果”でぶっちぎりの優勝…全日本学生選手権【2008年9月2日】
北京五輪の熱が覚めやらぬ中で行われた今年の全日本学生選手権。男子グレコローマンでは、北京五輪さながらの番狂わせが初日から多く見られた。第1シードで勝ち進んだのは120s級のムジコフ・ボリス(山梨学院大)と96s級の山本雄資(山梨学院大)のみ。特徴的だったのは、日体大が一人勝ちをしたこと。安達巧監督は「久々の大勝だね」とご満悦。
フリースタイルでも勢いは変わらず、4階級を制した日体大。しかも、グレコローマンと同じように、もともとシード選手で優勝したのではなく、ノーシードから勝ちあがった選手がフリースタイルでも多かった。顕著だったのはフリースタイル60s級の洞口幸太。準決勝で、6月の明治乳業杯全日本選抜選手権で湯元健一(日体大助手)を破った小田裕之(国士大)を倒す殊勲を挙げて(右写真)優勝した。「一番頑張ったのは、洞口」と多くの部員が口をそろえていた。
結局、両スタイル合わせて日体大が8階級を制覇。決勝戦の5階級が日体大同士による同門対決だった。日体大で表彰台に上ったのは全部で20人。ここ数年で一番の成績だ。
年 | 階級数 | 優勝者数 | 3位入賞者数 | ||||
グレコ | フリー | 計(独占率) | グレコ | フリー | 計(独占率) | ||
1994年 | 10 | 6 | 3 | 9(45%) | 19 | 8 | 27(45%) |
1995年 | 10 | 5 | 5 | 10(50%) | 9 | 11 | 20(33・3%) |
1996年 | 10 | 8 | 4 | 12(60%) | 13 | 10 | 23(28・8%) |
1997年 | 8 | 5 | 4 | 9(60%) | 13 | 13 | 26(40・6%) |
1998年 | 8 | 3 | 4 | 7(43・8%) | 8 | 11 | 19(29・7%) |
1999年 | 8 | 5 | 2 | 7(43・8%) | 14 | 8 | 22(34・4%) |
2000年 | 8 | 3 | 2 | 5(31・3%) | 10 | 8 | 18(28・1%) |
2001年 | 8 | 3 | 3 | 6(37・5%) | 7 | 6 | 13(20・3%) |
2002年 | 7 | 3 | 2 | 5(35・7%) | 10 | 7 | 17(30・4%) |
2003年 | 7 | 2 | 3 | 5(35・7%) | 13 | 6 | 19(33・9%) |
2004年 | 7 | 3 | 2 | 5(35・7%) | 13 | 6 | 19(33・9%) |
2005年 | 7 | 2 | 1 | 3(21・4%) | 10 | 4 | 14(25%) |
2006年 | 7 | 3 | 1 | 4(28・6%) | 12 | 4 | 16(28・6%) |
2007年 | 7 | 3 | 2 | 5(35・7%) | 11 | 8 | 19(33・9%) |
2008年 | 7 | 4 | 4 | 8(57・1%) | 11 | 9 | 20(35・7%) |
※1995年までは3位決定戦を実施=メダリストは各階級3選手
■秋の陣へ向けて部内の競争が激化する!
ただ、番狂わせは日体大内部でも起こっていた。フリースタイル66s級や74s級は日体大の1番手で東日本学生リーグ戦でも活躍していた成瀬一彦や倉谷修平が同じ日体大選手に敗れた。9月18日の全日本大学王座決定戦(東京・駒沢体育館)はもちろん、10月、11月に行われる全日本学生グレコローマン選手権大会と全日本大学選手権は各大学1名しか出場できないので、その代表選びが安達監督を悩ます種となりそうで、「部内戦を行わなくては…」とうれしそうに悲鳴を上げていた。
勝因は何か−。安達監督は「北京オリンピック効果だね」と即答した。8月1日には都内で日体大レスリング部の北京五輪壮行会が盛大に行われ、部員全員がスーツ姿に身を固めて先輩たちを見送った。最後は五輪戦士たちを囲んで写真撮影(左写真)。あまりの部員の多さに撮影会も圧巻だった。このイベントで、部員たちの気持ちがまとまり、インカレへ向けてのある意味、“決起集会”のような形となった。
そして日体大名物の草津合宿で、各自が五輪をテレビ観戦し、先輩たちの活躍に一喜一憂し、インカレの自分と照らし合わせた。「僕らだってできる」。部員が80人いる日体大のメリットはたくさんあるが、デメリットを挙げるとしたら、全員の気持ちがまとまりにくいところだ。
トップクラスは五輪や世界選手権レベル。だが80人全員がその気持ちでいるのは難しい。ひとり意識が低い選手がいるとチームワークを乱す恐れがあった。今年の日体大は五輪効果でレギュラークラス以外の部員たちも含めた80人全員が気持ちが高まったのだろう。
■山梨学院大ほか他大学の巻き返しはあるか
日体大に次いで、春の東日本学生リーグ戦優勝の山梨学院大が両スタイルで3階級を制覇。“東日本ナンバーワン”の意地を見せ付けたが、日大や早大は今回元気がなかった。日大は5年ぶりに無冠に終わり、近年昇り龍のように力をつけてきた早大は、グレコローマンでは表彰台の上がった選手がなく、得意のフリースタイルでも1人が決勝に進むのがやっとだった。
日体大の一人勝ちで幕を下ろした今年の全日本学生選手権。9月からは学生レスリングの本格的なシーズンが始まる。日体大は、インカレの“五輪効果”を今月の全日本学生王座決定戦にも持続させることができるか。それとも気持ちを切り替えた他校が巻き返しするのか。学生レスリングは、今秋も目が離せない状況になってきた。
(文・撮影=増渕由気子)