【特集】高校四冠王達成! 両スタイル完ぺきな井上貴尋(兵庫・育英)「世界を目指したくなってきた」−【2008年10月3日】



 8月のインターハイで激戦区の60s級を無失点で制し、MVPに輝いて将来のフリースタイル・トップランナーとして一躍注目を浴びた井上貴尋(兵庫・育英)。だが「グレコローマンも好きだから」という理由で、「チャレンジ! おおいた国体」はグレコローマン60s級にエントリーし、見事に優勝。高校生活最後の大会を飾った(右写真)

 国体は、ともすると“お祭りムード”の色合いが強くなるが、井上にとっては最も重視する大会となった。3月の全国高校選抜大会、夏のインターハイ、全国高校グレコローマン選手権に続く4つ目のタイトルがかかっていたからだ。第2日にフリースタイル74kg級の北村公平(京都・京都八幡)が2年生ながら高校五冠王に輝いたが、井上の四冠王も快挙に値する。

■グレコの醍醐味! 豪快なリフト技で”魅せた”

 複数のタイトルがかかると、内容よりも勝負にこだわる選手が多いが、井上は違った。初戦から手堅く1点を奪うレスリングは一切なし。スタンドも流さず、胴タックルや腕とりで相手をマットにはわせると、そこから強烈な俵返しやバック投げを連発。決勝戦までの4試合がショータイムのようだった。

 フリースタイルも完ぺきでグレコローマンも最強。スタイルと階級は違えど、同じ関西で高校のトップを走る北村公平の活躍が励みかつ刺激になっている。北村の専門はフリースタイル。両足タックルで相手を持ち上げて豪快にテークダウンする北村は「ダイナミックなレスリングをしたいから」と目を輝かせている。

 井上も同じく「魅せるレスリングをしたい」。だが、フリースタイルになると井上はち密なレスリングをしてしまう。「(昨年の高校三冠王の田中幸太郎のように)強い選手もいっぱいいるし、手堅く行った」結果が無失点で優勝したインターハイだった。

■高校五冠王の北村とどちらが年間MVPか?

 3年間ずっと注目されてきた一方で、周囲が言うほど井上自身に「将来、日本代表として世界で戦う」というイメージは持っていなかった。だが、北京五輪で銀メダルを獲得した松永共広(ALSOK綜合警備保障)の試合を見て、考えが変わったようだ。「自分もオリンピックに出て、メダルを取りたくなった。来年からは世界に出たい」と目標を掲げた。

 高校生活でやることはやった。「できれば年間MVPを取りたい」と話す井上だが、そこに立ちはだかるのはやはり北村だろう。井上が落とした唯一のタイトルはJOC杯で3位だった(北村はカデットで、井上はジュニア)。「どちらがMVPになるかな。楽しみです」と笑顔を見せた
(左写真=豪快な技を連発させて四冠王に輝く)

 進学はすでに日体大に決定しており、フリースタイル60s級銅メダリストの湯元健一(日体大助手)と毎日スパーリングできることが「楽しみ」と言う。湯元らとの練習を重ねれば、すぐにでもフリーのトップへ駆け上がりそうだが、井上にはグレコローマンへのこだわりもある。

 笹本睦らの活躍の一方で、全体としては日本のグレコローマンはまだ層が薄い。その日本グレコチームを「自分が引っ張って強くしたいと思うか?」と問うと、力強く「十分にあります」と答えた。今後も両スタイルに力を入れていく。「フリーは組み手、グレコはリフト技を強化したい」。

 アテネ五輪後、フリーとグレコのルールに差ができたことから、両スタイルを完ぺきにこなす選手は、層の厚い軽量級では少なくなった。それでも、両方をさらりとやってのける井上。来年の大学生デビューが楽しみな選手が、また一人誕生した。

(文・撮影=増渕由気子)



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