【特集】北京五輪へ向けて「ルール変更は勝てない理由にならない!」…富山英明

日本協会・強化委員長     
富 山 英 明(日大教)  


 シドニー五輪後に強化委員長を引き受け、アテネ五輪での勝利を目指してひたむきに走ってきた成果がひとまず出てホッとしたのも束の間、年が変わり、アテネ五輪の金メダル2個、メダル6個が遠い過去のものに感じられるようになりました。私たちは、もう新たな目標に向かって突き進まなければなりません。

 北京五輪では、アテネ五輪以上の成績を残すことが要求されています。責任を感じる度合いは前回とは比べものにならないほど大きく、身が引き締まる思いがします。男女の強化スタッフが一丸となり、勝利を目指して闘い続けていきたいと思います。

 昨年12月に行われた天皇杯全日本選手権で、明るい兆しがありました。男子で学生選手が5人も優勝したことです。ここ数年間のジュニア世代の強化が実りつつあることと、アテネ五輪で2選手が銅メダルをとり、3選手が上位入賞を果たしことが、若手選手に大きな刺激を与えたのだと思います。

 ルールが2分3ピリオドの短期決戦になったことで、若い選手に有利な状況ができたことも、若手が躍進した一因であると思います。試合時間はわずか120秒ですから、最初から思い切りとばせます。これまではペースを考えて戦う必要もあり、この面で経験の長いベテラン選手が有利でした。2分間では、いかに最初から爆発的な力を発揮できるかが勝利への道となります。体力が十分にある若手選手は、これまで以上にベテラン選手に勝つ可能性が広がったと考えていいでしょう。

 世界のレスリングがどう変わるかは、今のところ全く分かりません。「2分という短期決戦は、より外国選手が有利になる」という声も聞きますが、やる前からそうした逃げ道をつくってはなりません。これまで、3分3ラウンドから3分2ピリオドへ、あるいは早朝計量から前日計量へ、さらに1日のみの計量へとルールが変わる度に「日本選手は不利になる」と言われてきました。

 しかし条件はどこの国も同じなわけで、言い訳・逃げ道を考えた段階でそのルールに適応できなくなってしまいます。「日本選手は不利になる」と言われたルール下でも、日本と同じアジア民族の韓国や北朝鮮はきちんと結果を出していました。外国選手のパワーある上半身から繰り出すローリングにあれほど弱かった日本選手も、その対策に全力で取り組んだ結果、ここ数年は簡単に回されることがなくなりました。

 ルール変更を逃げ道にしてはいけません。そのルールの中で勝つために努力を重ねるべきであり、逆に「タックル中心のレスリングになるので日本に有利になる」と考えるべきです。グレコローマンにしても、今まで弱かったとされるグラウンドの割合が少なくなるのですから、絶対に有利になるはずです。

 全日本選手権を振り返ってください。学生王者とはいえ大学1年生の斎川哲克選手がアテネ五輪7位の松本慎吾選手から第1ピリオドを取りました。大学2年生の小島豪臣選手がアテネ五輪銅メダリストの井上謙二選手を破りました。強豪選手でも新ルールに戸惑っているのであり、今こそ引きずり下ろす絶好のチャンス。日本代表となった選手は、この時期こそ欧米の強豪を破る絶好のチャンスなのです。一度でも勝てば、次に戦うときに精神的な有利ができますし、他の階級の選手の刺激にもなり、チーム全体が盛り上がります。

 それを「新ルールは日本に不利」などと思ってしまっては、勝てるはずがありません。全日本チャンピオンに輝いた選手は、この冬、フリースタイルがトルコ、ブルガリアへ、グレコローマンがポーランドに遠征してそれぞれ試合出場と合宿をこなしてきますが、絶対に気持ちで負けないでほしいと思います。

 遠征を経験した選手は5月のアジア選手権に日本代表選手として出場することになります。5か月も先の大会の代表を早々と決めたのは、選手に自覚をもってほしいからです。10月の世界選手権の代表は、6月の明治乳業杯全日本選抜選手権で決めますので、アジア代表になっただけでいい気になっている選手はいないと信じています。

 ことし1年間は新ルールへの適応が最優先課題となると思いますが、若手にとって、こんなにいいチャンスの年もありません。若手が力をつけ、ベテランが負けまいと必死になる中から、本当の強豪が生まれてきます。北京五輪へのスタートとなる2005年、どの選手も必死になって闘ってくれることを望みます。



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