【特集】北京五輪へ向けて「必要なことは“世界を追い越す”気持ち」…佐藤満

男子フリースタイル・ヘッドコーチ    
佐 藤 満 (専 大 教)   


 2008年北京五輪へ向けて男子フリースタイルの強化を担当することになりました。アテネ五輪でのフリースタイルは55kg級の田南部力選手と60kg級の井上謙二選手が銅メダルを獲得しました。また、2003年の世界選手権では66kg級の池松和彦選手が銅メダルを取っています。前回シドニー五輪のメダルゼロから比較しますと、大きく力を戻したと思います。

 現在、日本の試合において、彼らと互角に戦える選手は数多く存在し、軽中量級は層が厚くなったように思います。アテネ五輪の上昇ムードを無駄にすることなく、選手の力を伸ばしていき、北京で金メダル獲得を目標に頑張っていきたいと思います。

 アテネ五輪の結果から、日本のトップは世界でメダルを取ることのできるレベルにまで達しています。あと一歩で世界一に手が届くところにきています。ほかの階級も、そしてグレコローマンスタイルも含めて、ほとんどがあと一歩の努力でメダル圏内に入れる力をつけていると思います。

 では、その“あと一歩”を埋めるにはどうすればいいのでしょうか。もちろん日本代表となった選手に、より多くの国際経験を積ませることが必要でしょう。国際経験を積む中から、世界で勝てる実力(技術・体力・精神力・戦略)が身についていくことは間違いありません。

 また、私はそれ以外に、ジュニア選手の強化による下からの底上げでシニア選手に刺激を与えることも必要だと思っています。私はこれまでの4年間、ジュニア・チームの担当コーチとして、JOC(ゴールドプラン)の競技者育成プログラムによるレスリング協会独自のNTSをグレコの久木留毅コーチと作成し、海外遠征、世界選手権の観戦、研修合宿、米国コロラドスプリングスでの試合、合宿と、以前にはなかった強化を実行しました。

 今回の全日本選手権で、フリースタイルで3選手、グレコローマンスタイルで2選手、学生選手が優勝できたのは、各所属の指導者の熱心な指導はもちろんですが、NTSによるジュニア選手の底上げの効果は大きかったと思っています。

 シニアのヘッドコーチとなったわけですが、これからもジュニア選手の育成・強化に力を注ぐつもりです。なぜならば、これがシニアの強化にもつながると思っているからです。

 日本が低迷してしまった時を振り返ってみますと、ジュニア選手とシニア選手の実力が離れすぎていた現状がありました。チャンピオンは下から突き上げられることがないため、その地位に安閑としてしまい、それ以上に実力に力を伸ばすことができなかった面があったと思います。

 ジュニアの層が厚くなり、その中を勝ち抜いた選手がトップ選手に迫る。日本代表選手は地位を守るために必死になって練習する…。こうした構造の中から真に強い選手が生まれ、世界で勝てる選手へと育っていくのだと思います。全日本チャンピオンだけを強化すればいいというものではありません。今回の全日本選手権で5名の学生が優勝したという現実は、シニア、ジュニアの双方に大きな刺激を与えたことと思います。この中で皆が切磋琢磨し、より多くの世界で勝てる選手が生まれて欲しいものです。

 世界へ飛び出す時に、「世界へ追いつく」という気持ちでは駄目でしょう。「世界を追い越す」という気持ちがなければ、世界一になることはできません。我々も選手同様、そうした気持ちをもって「世界を追い越す」選手を育成していきたいと思います。

 もちろん、基本となるのは1日1日の積み重ねです。どの選手も自分の所属では一番強い立場にあります。そのため、練習で力を抜いてしまわないとも限りません。選手を信用していないわけではありません。全日本チャンピオンに輝いた人は、さらなる上を目指し、誰もが自覚を持ってやってくれると思います。しかし、所属においては何らかの刺激がないと、毎日緊張感を持って実行することは大変なことです。

 そこで、全日本チームとして3ヶ月に1度、体力測定を実施する予定です。所属で緊張感のない練習をすれば、間違いなく体力の数値が下がります。ちょっとした刺激ですが、選手により自覚を持ってもらうために実施する予定です。すでにNTSでは行っていますが、有望なジュニア選手にも実施する予定です。

 毎日の練習をおろそかにしては、世界で勝てるだけの実力が身につくはずはありません。 そして新ルールへの対応は、まずわれわれコーチがしっかりとルールを勉強したいと思います。そのうえで、世界に勝つための練習方法を探し、指導していきたいと思います。コーチも必死に取り組み、北京五輪での勝利「男子の金メダル」を目指して頑張りたいと思います。



《iモード=前ページへ戻る》

《前ページへ戻る》