【特集】北京五輪へ向けて「日本人の特性を生かしたスタイル確立を」…伊藤広道

男子グレコローマン・ヘッドコーチ      
伊 藤 広 道 (自 衛 隊)  


 アテネ五輪までに続き、グレコローマンの全日本チームを指導することになりました。アテネ五輪では残念ながらメダルの獲得はなりませんでしたが、入賞した笹本睦選手、松本慎吾選手は言うに及ばず、どの選手もメダルを取れる力は十分にあると感じました。アテネ五輪まで実行してきた強化の方向性に間違いはないと思っています。

 北京五輪へは富山英明強化委員長の体制を維持して挑みます。グレコローマンのコーチ間、あるいはグレコローマンとフリースタイルのコーチ間は、とてもいい人間関係を構築しており、同じ目標へ向かって一丸となることができると思います。

 女子も正式に協会強化委員会のもとで活動することになりました。アテネ五輪で金メダルを取った女子が加わることで大きな刺激となります。切磋琢磨しあって同じ目標に向かっていきたいと思います。

 新たな4年間のスタートにあたり、まず最優先で取り組まねばならないのがルール変更に対する対応です。フリースタイルよりグレコローマンの方が間違いなく戦い方が変わるでしょう。今まではスタンドで押し勝ち、パーテールポジションからの攻撃というのがグレコローマンの一般的な攻撃パターンでした。

 しかし、これからはスタンドでポイントを取る技を身につけなければ勝つことができません。この形になったら絶対に技がかかる、という型をいかに早く見つけるかが、世界中のグレコローマン選手に課せられた課題です。

 私たち日本選手が、体型も体力も違う欧米選手の戦い方を真似ようとは思いません。日本人は器用さで欧米選手を上回っていると思います。この特性を生かしたスタイルを、早く確立させたいと思います。

 また、練習時間や練習に対する集中力といった点でも、日本選手は間違いなく欧米選手を上回っています。試合時間が短くなったから練習時間も短くていい、というものではありません。どんなルール下でも、勝つために必要なことは、必死になって多くの練習を積み重ねることです。

 練習量を積むことで自信がついてきます。「これだけやったんだから負けるわけがない」と思うようになり、試合で勝つための闘争心ができてきます。長い時間をダラダラやるような練習になってはいけませんし、2分間で最大の力を出せるような練習をやらなければなりませんが、ハードトレーニングを否定するような練習をやるつもりはありません。

 それらをふまえ、この冬はまずポーランドで行われるヨーロッパ各国が集まる合同合宿に参加し、強化したいと思います。いずれは、練習よりも多くの国際試合を経験させた方がいい段階が来ると思いますが、今回は若い選手が多いこともあり、まず練習によって本場ヨーロッパのグレコローマンを体験させます。

 74kg級と120kg級で全日本王者になった鶴巻宰選手、新庄寛和選手、84kg級で全日本2位になった斎川哲克選手ら若手選手にとっては、日本とは違う本場のグレコローマンに接するすることで戸惑うかもしれません。しかし、その中から練習方法が見えてくると思います。笹本、松本の世界トップランカーにとっては、海外の強豪を圧倒するような練習が必要であることは言うまでもありません。

 2年前にポーランドで行われた欧州の合同合宿は、地元のポーランドのほか、ベラルーシ、スウェーデン、ノルウェー、エジプトなどから選手が集まり、どの階級も世界8位以内の選手の半分くらいは集まっていたと思います。今回もこれらの国から集まると思います。

 北京五輪への基盤づくりとして、多くのものを学ばせてきたいと思います。スタートでどれだけ他国に先んじるかが、その後にも大きく影響してきます。全力で、この合宿に臨み、基盤をつくりたいと思います。



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