【特集】現状で満足してはならない逸材! 世界へ飛び出せ!…小幡邦彦




 平均年齢が若返った今年の全日本チーム。フリースタイル・チームを引っ張るのが最年長の96kg級・小平清貴(警視庁=26歳)であり、03年に世界3位に輝いた66kg級・池松和彦(日体大助手=25歳)だが、彼らよりも長く全日本チームにいるのが74kg級の小幡邦彦(綜合警備保障=24歳、写真左)だ。99年12月の全日本選手権を19歳で制覇。若手がなかなか伸びない状況を打破し、将来へ向けて明るい話題を提供したホープだった。

 00年のシドニー五輪はあと一歩で逃したが、茨城・霞ヶ浦高時代に2年連続高校四冠王に輝いた逸材に対する期待は高かった。その期待にこたえ、02年に4年連続学生二冠王を達成。これは赤石光生(84年ロサンゼルス五輪銀・92年バルセロナ五輪銅)以来17年ぶりとなる偉業だ。同年アジア大会(韓国・釜山)では世界4位のカザフスタン選手を破る殊勲。アテネ五輪の出場資格も、第一次予選である03年世界選手権(ニューヨーク)で10位に入賞して獲得。非凡な才能を見せてはいる。

 だが、これらの成績で十分かといえば、「否」である。99年の世界ジュニア選手権で3位に入賞していることを考えれば、世界の舞台でメダルに手が届かないという現状では、“力が下がっている”と評されても返す言葉はあるまい。今年から08年北京五輪へかけての3度の世界選手権では、メダルを手にしてもらわなければならない選手なのである。
(写真右は04年天皇杯全日本選手権)

 小幡も「国内では何度も勝っていますから、世界で結果を出さないとなりません」と、世界での飛躍が今後の目標であることは認識している。それにはルールが変わった今年が最高のチャンスだ。「(他国の選手が)戦い方を考えている合間に勝ち抜いていきたい」と研究にぬかりはない。北京五輪へのスタートダッシュで優位な位置を確保すれば、その後につながることは言うまでもない。

 全日本選手権で新ルールを経験し、「常に攻めることが必要。守ってはダメ」という感触を得た。2月13日からの欧州遠征で2大会を経験し、世界の戦い方を再確認することになるが、この基本が変わることはあるまい。

 練習で注意しているのは、押し出されても1失点になるので、とにかく脚をさわらせないこと。今まで以上に「脚をさわらせない」という意識を強く持って攻撃し続ける練習を積んでいるという。差し手争いの強さには定評があるので、2分の試合時間でこの課題を実践することはそう難しいことではないように思える。

 03年に世界10位に入った自分も含め、世界のトップレベルの選手の実力は「そう大きく変わっていない」と言い切る。では勝敗を分けるものは何と考えているのか。「勝負どころを知っていて、そこで力を出し切れる選手が勝者になれる」と話す。自分はその部分で劣るため、まだ世界でメダルに手が届かないと分析している。

 それを強く感じたのが、アテネ五輪での井上謙二(フリー60kg級)だ。激戦を勝ち抜いて銅メダルを取れた最大の要因は、勝負どころで力を出し切れたことだったと見ている。ほかにもメダルに対する意識の強さも見習うことだった。「自分は、何が何でもメダルを取るという意識が足りませんでした。メダルを取ると取らないとでは、周囲の対応も違ってくる。取らないとダメですね…。北京五輪では絶対に取りたい」と、反省をこめて約半年前の闘いを振り返った。

 ことしは、5月にまずアジア選手権(中国・武漢)へ挑む。昨年のアジア選手権(イラン)は銅メダルを獲得しており、その後のアテネ五輪でアジア2位のインド選手を破っているので、実質的にはアジアで2番目の位置にいることになる。「優勝が目標」と言うのは当然。ここで弾みをつけ、秋の世界選手権へ臨みたいところだ。
(写真左は全日本合宿)

 全日本選手権では綜合警備の男子選手4人が優勝し、そろってアジア選手権へ臨む。全日本選抜選手権(6月)の結果次第では、4人とも世界選手権へ出場することになる。「みんなで頑張りたい。4人で北京オリンピックへ出たい」。小幡にとって北京五輪は“経験を積む場”にはなりえない。“結果を出さねばならない場”だ。覚悟をもってこれからの4年間に臨んでほしい。

(取材・文=樋口郁夫)




《前ページへ戻る》