【特集】C・ノードハーゲンが自信たっぷりの“打倒浜口”宣言!




 第3回女子ワールドカップ(10月11〜12日、東京・代々木第二体育館)に出場するカナダ、ドイツ、ロシア、中国チームが9日、相次いで成田空港に降り立ったが、約2年2ケ月ぶりに日本の地を踏んだカナダ・チームのエース、世界V6(歴代最高)の72kg級、クリスチン・ノードハーゲン(写真右)は打倒浜口に並々ならぬ意欲を見せ、「絶対に負けない」と気合を入れた。

 1994年に初めて世界一になり、世界の頂点を重ねていったノードハーゲンは、浜口にとって目標の一人だった。97年に3度目の挑戦で世界一を奪取した浜口は、前年の大会でノードハーゲンに大善戦。最後はフォール負けしたものの、途中まで堂々と渡り合えたことで自信を強めた。「あのノードハーゲンと互角近くにやれた」。ノードハーゲンは、若い選手にそう思わせるような存在だった。

 その後、階級区分が変わり、98年にノードハーゲンが68kg級で、浜口が75kg級でそれぞれ世界チャンピオンへ君臨した。だが、2人の心には、ライバルを倒さずしての世界チャンピオンに物足りない思いがあったのではないか。神様はそんな2人を引き合わせた。99年、ノードハーゲンは「自分の力を試す」という理由で72kg級へ挑戦した。

 下の階級のノードハーゲンが上の階級のチャンピオンの浜口に挑んだのか、世界チャンピオンの後輩の浜口が先輩のノードハーゲンに挑んだのか。どちらの図式が正しいかの結論は出せないが、何はともあれ、99年世界選手権で両者は激突
(写真右)。壮絶な死闘の末、浜口の勝利。目標だった最強のレスラーを倒しての優勝は、浜口の気持ちに満足感を残した。

 おさまらないのはノードハーゲン。この年を最後にいったんマットを離れ、子作りに入る予定だったが、それを延期して翌年の世界選手権も72kg級へ挑戦。またまた大激闘の末
(写真左)、今度はノードハーゲンの手が上がった。

 今度は浜口がおさまらなかったが、「来年、また72kg級で出てきて」という願いもむなしく、翌年は本来の階級の68kg級に出場して優勝。一方の浜口といえば、75kg級で優勝を逃すどころか4位に転落。間接的な敗北を喫してしまった。その後、ノードハーゲンが子作りに入ったり、ひざのケガで戦列を離れ、世界選手権を欠場したりして戦う機会のないまま時がすぎた。

 しかし、両者の運命の糸は途切れていなかった。神様はどこまでも意地悪で、2人にこれ以上はないという試練の場を与えた。女子が五輪種目に採用されながらも実施階級が4階級のみとなったことで、アテネ五輪の金メダルを目指すノードハーゲンは、階級を72kg級に定めた。「五輪で金メダルを取ること」とは、すなわち「浜口を倒すこと」。今回のワールドカップは団体戦だが、ノードハーゲンはアテネ五輪の前哨戦として、浜口との戦いに全力を傾けてくるのは間違いない。

 両者はことし3月、
クリッパン国際大会(スウェーデン)で約2年半ぶりに対戦する機会があり、浜口がフォール勝ちしている。結果だけを見れば、2年半の間、浜口がどん底からはい上がって4度目の世界一に返り咲き、ノードハーゲンのケガによる長期戦線離脱などで実力が完全に逆転したと考えられる。

 だが、この日、ノードハーゲンはそれを強く否定した。「あの時は、ケガもあってコンディションは最悪。トレーニングも十分にできず、負けても仕方のない状況だった」と言う。その2ケ月後のカナダ選手権でも、オヘネワ・アクフォにフォール負けしており、ケガによるブランク明けの影響はかなり大きかったようだ。

 しかし、この一流選手はケガからの回復も一流のようだ。「いまは違う。コンディションは最高。トレーニングも十分に積んできたし、今回は絶対に負けない」ときっぱり。「浜口は、あのフォール勝ちでかなり自信をつけたみたいだ」という声に、「自信なら私もあるわ」という答。ケガ中の対戦だったことし3月の試合を除けば、2勝1敗と勝ち越している自信なのか、それとも五輪チャンピオンを目指す以上、「絶対に負けられない」と自分に気合を入れているのか。

 ノードハーゲンの数時間前に相次いで成田の地に降り立った世界2位のトッカラ・モンゴメリー(米国=
写真左)が、浜口を「すばらしい選手。大きな壁。まだ弱点が見つけられないの」と称え、欧州チャンピオンのアニータ・シャツル(ドイツ=写真右)が「(浜口のことは)よく分からない」と話したくなさそうで、ともに「打倒」宣言が出てこなかったことと対照的。はっきりと「浜口を倒す!」と言い切ったのは、ノードハーゲンだけ。世界V6選手の貫録というか、負けん気というか。32歳ということで浜口のライバルから除外されかかっていたが、アテネ五輪金メダルの最大のライバルは、やはりこのカナダ・レスラーなのかもしれない。

 「日本のレスリング界は、2人の対戦に大きな関心を寄せています」という声に、「一番関心を持っているのは私よ」と笑ったベテラン・レスラーの目には、アテネ五輪の金メダル、しいては打倒浜口の思いがしっかりと見えている。(取材・文・写真=樋口郁夫)

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