【特集】震災で犠牲になった祖母へ捧げる全国制覇…長知宏(霞ヶ浦)【2011年8月3日】
(文・撮影=池田安佑美)
インターハイ学校対抗戦は霞ヶ浦(茨城)が4−3で花咲徳栄(埼玉)を下して優勝した。大沢友博監督は、「一番の功労者は長知宏(おさ・ともひろ)」と、2年生の重量級エース(84kg級)をたたえ、顔をほころばせた。(左写真=決勝で闘う長)
その長は今回、特別な想いを背負って試合に臨んでいた。「母の実家が岩手県釜石市にあり、岩手県開催のインターハイには、祖母(菊池信子さん)が応援に来てくれるはずだったんです」―。
インターハイの開催地は47都道府県を回っている。自分の代はどこで行われるかは、めぐり合わせ。岩手県出身の長知宏にとって、今大会は願ってもないチャンスだった。2年で霞ヶ浦のレギュラーを取った全国舞台は、当初、岩手県宮古市で開催が決定。釜石市に住んでいる母方の祖母に、「釜石市と宮古市は近いから」と、晴れ姿を見せる約束をし、今年の8月に向けて気合を入れていた。
■「おばあちゃんのために、頑張りました」
そんな中、3・11東日本大震災が起こった。釜石市は津波で壊滅的な被害を受け、祖母も音信不通に。2週間経って母の美和さんが被災地に入り、各避難所を探したが見つからず。その2日後に遺体安置所で確認された。長は「避難所に逃げて、助かっていると思っていた」と、地震直後は平常どおりの生活を送っていたが、祖母の訃報を受け、1週間ほど緊急帰省。当然、精神的ショックも大きかった。
霞ケ浦(茨城) 4 − 3 花咲徳栄(埼玉) 50kg級 山本 ●[ 0−2 ]○ 中村 55kg級 樋口 ○[ 2−1 ]● 杉山 60kg級 古谷 ○[ 2−0 ]● 山田 66kg級 武田 ●[ 0−2 ]○ 飯島 74kg級 山下 ○[ 2−1 ]● 小山内 84kg級 長 ○[ 2−1 ]● 吉岡 120kg級 吉川 ●[F、2P0:28]○ 山本 |
祖母との永遠の別れを前に、長は「絶対に強くなって勝たないといけない」と決意。2月の関東選抜大会では、花咲徳栄の吉岡靖典主将にテクニカルフォール負けを喫していたが、6月の関東大会では(0−3、0−2)と、負けたものの差を縮め、「インターハイでは構えを矯正し、メンタル面を磨いてきたので、五分五分だと思っていた」と自信を持って臨んだ。
今大会、長が挙げた殊勲の白星は2度。準々決勝で、秋田商(秋田)のエース、84s級・桜庭正義をストレートで撃破したことと、決勝の花咲徳栄戦で今季2連敗の吉岡に2−1で競り勝ったこと。いずれも3年生の主力相手に、2年生の長が勝ったことは霞ヶ浦にとって大きな1勝だった。「長がここまで頑張るとは―」。霞ヶ浦の関係者は、長の成長ぶりに目を見張った。
長の驚異的な成長の陰には、震災で家族を失った計り知れない苦しみがあった。祖母と約束どおり、岩手の全国大会でMVP級の活躍を見せた長は「おばあちゃんのために頑張りました」と笑顔。殊勲の白星は、天国の信子さんに捧げられた―。