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【特集】レスリングを通じて身体を動かす楽しさを教える…東京・高田道場
【2011年8月2日】

(文=樋口郁夫)




 元プロレスラー&格闘家の高田延彦代表率いる高田道場(東京)からは、男子13選手が参加。優勝3人、3位3人の成績を挙げた。(右写真)

 会場で選手たちの試合を見守った高田代表は、レスリングのOBではないが、主宰する道場でレスリング教室を開いているほか、全国各地でレスリングを取り入れた子供の体育教室「ダイヤモンド・キッズ・カレッジ」を開催している。「レスリングは成長期の子供にとって重要な運動であり、レスリングを通じて子供たちに何かを学んでほしい」という理由からで、世界で通用するレスリング選手の育成が目的ではない。

 レスリングは、子供の成長に必要な要素が数多く含まれていると言う。「何の道具も使わず、裸で押したり引いたりなど、多くの運動の要素がある。ルールのもとで仲間とぶつかり合うことが子供たちにとっては必要。自分より強い者や大きい者、逆に小さい者や弱い者と日々接することで、大切な何かが養われる。日々の勝ったり負けたりの中で、心身ともに多くのことが養われていくわけです」との持論。

 また、「レスリングは個人競技でありながら団体競技でもある」とも言う。「一人では強くなれない。いい仲間がいて、いい指導者がいて、それで勝てる選手になるわけです。みんなで強くなろう、日々みんなで学んでいこう、という気持ちを裸でぶつけあう…。これが大切なことです」と、あくまでも子供の健全な成長を考えての教室の開講だ。

■試合に出る以上は、勝ちにいくことが大切

 自身の子供のころは、特別にレスリング教室といったものに通わなくとも、子供が多くいて、外遊びの中で肉体を鍛え、その中から成長に必要なものを経験できたという。少子化で遊び相手が少なくなり、治安の問題も出てきて遊び場に不自由する時代となったため、外遊びに代わるものとしてレスリングを手掛けた。

 だから「強いレスリング選手を育てようというコンセプトはありません」ときっぱり。「外遊びの代替としてレスリングをやらせているのです。レスリングをやりながら野球やサッカーをやる選手が出てもいい」という。

 その中で「レスリングでとことん強くなりたい」という子供が出てくれば後押しはしていくが、「あくまでも、その子供の気持ちが先です。こちらから日本一を目指させるような指導はやりません。強い子に合わせた練習もやりません」という方針を持っている。

 もちろん、「いい仲間や指導者とやっていけば、本能で勝つことへの気持ちは自然に芽生えていくでしょう。試合に出る以上は、勝ちにいかなければね」と、勝つことを放棄しているのでもない。
(左写真=大会の最後となった試合を制し、6連覇を達成した5年32kg級の森川海舟選手)

 「子供にとって、身体を動かして何かに集中にして打ち込むことは大切なこと。子供自身が設定した目標があるからこそ、その瞬間が楽しいからこそ、集中できるのであり、つまらなければ集中なんてできない。これからも、一生懸命に身体を動かす楽しさを教えていきたい」。高田代表の信念は、今後も「ダイヤモンド・キッズ・カレッジ」などで実行していく。

■高田代表の指導方針を実践する志土地翔大コーチ(日体大OB)

 高田道場のレスリング教室の指導陣の一人が、日体大の66kg級でレギュラーを務めた志土地翔大コーチ(2009年全日本学生選手権3位)。大学を卒業し、オリンピックを目指したいという気持ちもあったが、「社会人をやりながら、狙える世界ではない」として昨年限りで現役を引退。親は地元(熊本)で幼児教育に携わっていることもあって、子供にレスリングを教えることに興味があり、高田道場で指導を手掛けることになった。半年がたち、「やりがいを感じます」と言う。

 指導方針は「勝つだけじゃない。礼儀、礼節が第一」。強いだけの選手を育てることはししない。「勝て、勝て、の練習はやりません。負けて悔しいと思い、そこからはい上がってくれるような子供を育てたい」と言う。
(右写真=セコンドから選手に声援をおくる志土地コーチ)

 日体大でレギュラーを務めた選手なら、勝つための技術を教えることもできるだろうが、「まず構えとタックルです」と言い、週3回の練習の大半は基礎体力づくりと基本技術のマスターにあて、高田代表の指導方針を実行している。

 妹の希果選手(至学館大)は9月の世界選手権(トルコ・イスタンブール)の代表となり、この大会の前日には、その前哨戦である世界ジュニア選手権で優勝という朗報が入って来た。「ボクがオリンピックをあきらめましたから、ぜひ狙ってほしい。まず世界チャンピオンですね」と表情をゆるめ、こちらの方は「勝ってほしい」とエールをおくった。



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