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【特集】キッズ・レフェリーの母を目標に審判に挑戦! 選手としても頑張る藤川千晶さん(早大)
【2011年5月26日】

(文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)




 一昨年の東日本学生リーグ戦で、渡辺悠香さん(当時日体大)と車屋綾香さん(当時日大)がレフェリーを務め、東日本学生の大会での女性審判は“普通の光景”になりつつある。今年のリーグ戦では、早大3年生の藤川千晶さん(右写真)が試合を裁き、女性レフェリーの“伝統”をつなげた。

 父は自衛隊および全日本女子チームでコーチを務める藤川健治さん。4歳の時からレスリングを始め、これまでに2005年アジア・カデット選手権38kg級優勝、2009年世界ジュニア選手権44kg級2位などの実績がある。父の影響でレスリングをやったことは間違いないが、「強制はされた記憶はないです。自分がその気にならなければ、大学まで続けることはないでしょう。自分で決めた道です」とのこと。

 今回、レフェリーに挑んだのは「審判から見る視点を知れば、選手活動に役に立つと思ったから」という理由から。また、学生連盟では男子の数に比べると女子の大会数が少ない。「男子選手が頑張っているのだから、自分も頑張らなければ」という気持ちで新たな分野に挑んだ。数少ない大会で頑張り、男子選手を応援するだけが部への貢献ではない。しばらくの間は選手と審判の二束の草鞋(わらじ)をはき、マットの上で汗を流す予定だ。

■幸か不幸か、クリンチの微妙な判定は一度もなし

 4月にC級ライセンスを取ったばかりで、これが“デビュー戦”。「緊張するし、難しいですね」という感想。マットサイドで見ている時は第三者の立場で試合を見ることができるが、マット上で選手の動きを追いながら瞬間的にジャッジを下すのは、思った以上に大変だったという。

 一番難しかったのは、場外際の攻防。選手が場外へ出た場合、場外逃避の警告(通称「1ポイント・コーション」)を取るべきかどうかが、よく判断できなかったという。もうひとつは、タックルとタックル返しの攻防で、どちらのポイントになるかの判断。ともに瞬時に判断を下さねばならない。
(左写真=レフェリーを務める藤川さん)

 経験の浅いレフェリーの場合、クリンチでホイッスルを吹くタイミングも難しいことのひとつ。うまくできないレフェリーも少なくない。しかし、幸か不幸か、今回は一度もクリンチの攻防がなかったというから、これは次回までの宿題となった。

 母・恭子さんは、レスリングの経験はないがキッズ・レスリングでレフェリーを務め、小さな大会でも顔を出すなど活発な活動をしている。これも審判の道に進むひとつのきっかけだ。「レスリングの素人ですけど、視点がしっかりしているんです」と、0からスタートしてそのレベルにまで達した努力に感じるものがあった。

 日本協会の斎藤修審判員長から「お母さんは立派な審判だよ」との言葉をかけてもらい、「そんなにすごいんだ〜」と感じて同じ道を歩む気持ちが芽生えたようだ。自身も弟も、今はキッズ・レスリングの世界にはいないが、それでもマットに上がってキッズ・レスリングに貢献している姿を、「尊敬しています」と言う。キッズと学生・一般の審判を単純に比較はできないだろうが、母のレベルにまで行くことが審判としての目標か。

■今年の目標は、まず学生チャンピオン!

 高校(埼玉・埼玉栄高)に進んだ段階で、「大学まではレスリングを続ける」という気持ちだった。それだけに、選手として輝きたいという気持ちも強い。8月の全日本学生選手権(東京・駒沢体育館)では「優勝を目標にしています」ときっぱり。昨年の初戦敗退の雪辱が目標だ。
(右写真=2005年のアジア・カデット選手権で優勝した時の藤川さん)

 卒業後のことは未定。東日本大震災の復旧活動で自衛隊の存在が見直されており、レスリングを続ける、続けないにかかわらず、父の後を追って自衛隊という道も考えられるが…。この質問には、「それはないでしょう」と苦笑い。教員か一般企業が希望で、「何らかの形でレスリングに携わっていきたい。レスリングに恩返しができるような仕事につきたいです」と話した。



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