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【特集】レスリングで地域と交流を…自衛隊川内駐屯地レスリング部監督・外屋敷剛さん
【2011年3月17日】

(文・撮影=保高幸子)




 東北大震災の人命救助と救済で自衛隊がフル活動しているが、震災に先立つ3月5日から6日、自衛隊の朝霞駐屯地で第17回全自衛隊大会が行われた。毎年恒例となっているこの大会は、全国の駐屯地で一般自衛官として勤務する隊員達の大会で、自衛官の体力向上、意識向上に役立っている。

 遠く鹿児島県薩摩川内市の川内駐屯地の第8施設大隊チームからも参加があった。10年程前から監督を務める外屋敷剛さん
(右写真)は、小中学校で柔道を経験し、鹿児島商工高に進んでからレスリングを始めた。インターハイ団体3位や国体3位などの成績を残し、1988年3月に一般隊員として自衛隊に入隊。半年間の教育を受けたのち、希望していた体育学校入校が認められレスリング班に加わった。

 1年目の1989年天皇杯全日本選手権 kg級で4位の好成績を残した。その後、1992年バルセロナ五輪と1996年アトランタ五輪の出場を目指して奮戦したが、出場はならなかった。現役時代の最高成績は全日本選手権3位(2回)。他に、全日本社会人選手権では2度優勝している。

 アトランタ五輪で銅メダルを取った太田拓弥・現早大コーチと同い年で、74kg級に階級を上げた1994年の全日本社会人選手権決勝で対戦し、見事に勝って優勝している
(左写真)。アトランタ五輪の国内予選だった1995年全日本選手権を最後に引退し、一般隊員として地元に戻ることを決意した。

■1996年から地元で地道なレスリング普及活動

 1996年に川内駐屯地に転属となり、当時の監督に誘われてレスリング部に参加した外屋敷さんは、4年後に監督となり、現在28人のレスリング部員を指導している。28人のうち20人は柔道の選手だが、レスリングと柔道の練習を取り混ぜており、どちらの選手もレスリングに真剣に取り組んでいる。体育学校と違って毎日練習できるわけではなく、普段は自主練習のみ。大会前の約1ヶ月間だけ強化練習できる。それでも強化練習が行えるのは、レスリング部の活動が通常の業務や訓練の向上につながるという理解がある川内駐屯地ならではかもしれない。

 勤務に支障がなければ時に母校である樟南高(前鹿児島商工高)へも出向き、練習に参加している。「毎年7月に行われる全日本社会人選手権にも参加しますが、全自衛隊大会が一番の目標です」と話す外屋敷監督率いる第8施設大隊(以前の参加名は川内駐屯地)は、自衛隊内では強豪チーム。2008年と2010年に団体優勝し、今年は団体2連覇を目指していた。しかし結果は3位で、外屋敷さんは悔しそうだ。全自衛隊大会はレスリングを愛する自衛官にとってなくてはならない大会となっている
(右写真=選手の試合を見つめる外屋敷監督)

 部にはバスケットボールをやっていた隊員などレスリング未経験の人もいる。「山に行ったり、訓練で強じんな体力をもっています」と言う通り、レスリングの練習と経験が少なくとも、それを補うだけの体力トレーニングができているのは自衛隊ならでは。外屋敷さんは「部員達を全自衛隊大会で個人優勝させてやりたいという気持ちはありあすね。優勝することで、体育学校の選手が『一般隊員になってもレスリングに取り組める』と思ってくれるとうれしい」と話す。

 レスリングを愛する気持ちがあるからこそ出てくる言葉だろう。また、母校の練習に参加し高校生とレスリング交流することで、高校生に普段なら遠い存在の自衛隊を身近に感じてもらうことができる。高校生の進路の一つとして選択肢に入れてもらう事もできる。体力のあるレスリング経験者が入隊してくれれば、国益にもなる。「地域と交流していく事が大きいですね。地域と密着すれば、還元もできると思っています」

■2020年予定の鹿児島国体を目標に情熱が続きそう

 自衛隊だからこその難しさもある。自衛隊での階級が上がっていけばレスリングができなくなる場合も出てくる。転属で他の駐屯地に行くこともあり、4〜5年でメンバーが入れ替わるという。今回の東北大震災では、救助と復旧のため自衛隊10万人体制が指示されており、当然、地方の駐屯地からも長期にわたって隊員の派遣が予想される。集中して強化できる環境ではない。それでも情熱は衰えない。目前の目標は「全自衛隊大会団体優勝の奪還です」と力強く語る。
(左写真=個人戦で同チームから唯一優勝しMVPを獲得した元体育学校選手の西田哲人さん)

 その向こうには壮大な夢がある。「2020年に鹿児島で国体が予定されています。地元ですから、そこへ向けてレスリング人口の底上げをしていきたい」。鹿児島レスリング協会の理事でもあり、その思いは熱い。それには、10年後に高校生となる小学生達にレスリングを教える環境を整えることが必要だ。川内にはちびっ子レスリングがないので、外屋敷さんが中心となって立ち上げてほしいところだが、「転属があるので、なかなか…」と、ここでも自衛隊員としての難しさが壁となる。

 それでも諦めているわけではない。「ちびっこ以外でも、減少しているレスリング人口を増やしたいという気持ち」と言う。第8施設大隊の活躍を知ってレスリングに興味を持ち、取り組む一般隊員が増えればおのずと人口は増える。まずは来年の全自衛隊大会の優勝に向けて、外屋敷さんの挑戦は続く。



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