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【特集】高坂拓也監督の悲願達成! 自身の手で育て上げた選手で関東制覇
【2011年2月6日】

(文・撮影=増渕由気子)




 2010年度の正田杯関東高校選抜大会を制したのは、創部6年目の“新鋭校”花咲徳栄(埼玉)だった。決勝は昨年インターハイ王者の霞ヶ浦(茨城)を5−2で破り、3年ぶり2度目の優勝を決めた。

 優勝の瞬間、真っ先に生徒たちの輪に自ら入って喜びを爆発させたのは、高坂拓也監督
(左写真=セコンドの高坂監督)。弱冠30歳と、若手監督ながら強豪・霞ヶ浦を倒すチームを作り上げた。2度目の優勝とはいえ、高坂監督にとっては、ある意味で初優勝に近い心境だった。

 前回の優勝の時の2007年度大会でも監督として指揮を執り、霞ヶ浦を破っての優勝だったが、「前回の優勝チームは、前監督がスカウトして育てた選手たち」と振り返るように、2007年11月に急きょ監督に着任し、わずか3ヵ月後の出来事。「今回のチームは、スカウトを含めて自分が一から作ってきたチームですから、本当にうれしいです」と、監督としての手腕を発揮しての優勝だったからだ。

■キーマンは1試合目の中村倫也

 高坂監督が最も怖かったのは、「霞ヶ浦の伝統の力」。チーム力に自信があっても、試合巧者の霞ヶ浦を相手に、「勝っても4−3と紙一重の闘いになる」と予想していた。その中でキーマンとなったのは、1番手の中村倫也(50kg級)。花咲ジュニア出身で、2009年の全国中学生選手権男子42s級のチャンピオンだ。決勝戦の序盤の流れは、中村の出来にかかっていたのだ。

 開始直後は、霞ヶ浦の野田康成が軽快にタックルを仕掛けて、中村が後手にまわる展開。だが残り20秒、一瞬の隙を見てタックルでテークダウンを奪うと、そこからアンクルホールドを2度回して4−0とリード
(右写真)。第2ピリオドはクリンチからの攻撃をものにし、貴重な1勝を挙げるとともに、流れを花咲徳栄に呼び込んだ。

 勢いそのままに、3年ぶりの優勝を決めたチーム4勝目を決めたのは主将の84s級・吉岡靖典。柔道から転向し、レスリング歴はまだ2年にも満たないが、キャプテン就任をきっかけに「チームはオレが中心。オレが勝たないといけない」と自覚が芽生えた様子。「負ける気はしなかった」と、気持ちでも霞ヶ浦の長知宏を圧倒し、テクニカルフォールで勝負をもぎとった。

■決勝戦 花咲徳栄(埼玉)○[5−2]●霞ヶ浦(茨城) 
50s級 中村倫也○[2−0(4-0,2-0=2:05)]●野田康成
55s級 杉山雄介○[2−0(1-0,1-0=2:10)]●武田壮史
60s級 山田来哉●[0−2(0-1=2:03,0-1)]○古谷和樹
66s級 飯島拓也○[フォール、1P0:29(F2-0)]●篠崎平
74s級 小山内光将●[1−2(2-0,1-2,0-2)]〇山下俊介
84s級 吉岡靖典○[2−0(TF6-0=1:26,TF7-1=1:13)]●長知宏
120s級 山本康稀○[2−0(TF8-0=0:47,TF8-1=1:25)]●吉川裕介

 創部から日が浅いとはいえ、常に「霞ヶ浦の最大のライバル」と言わしめるほど“全国区”になっていた。高校レスリング界の雄である霞ヶ浦をライバル視することで、選手たちの意識も高くなり、KASUMIの名前に尻ごみしてしまう選手はいなくなった。

 また、昨年から主力が変わらない花咲徳栄に比べて、霞ヶ浦のチームは昨年のレギュラーが1人しか残っておらず、メンバーをほぼ総入れ替えで臨んだ。「勝つなら今!」とばかりに、チームの完成度が高い花咲徳栄が経験の差を見せ付けた格好となった。高坂監督は「優勝できなかった去年の悔しさが生きたね」とチームの成長に喜びを隠せなかった。
(左写真=優勝を決めた吉岡主将) 

■関東制覇の陰に内助の功あり

 この数年、全国タイトルを狙える位置をキープしてきた花咲徳栄の団結力の秘密は、内助の功にあった。2009年3月に結婚した真知子さんが寮母となり、一部の寮生は私生活から面倒みている。真知子さんは家庭科の教師であり、食事の栄養管理面ではプロフェッショナル。レスリングから私生活まで夫婦で選手育成に力を注いだことが今大会、報われたといえよう。

 今大会の優勝をステップに、高坂監督は「今年の4月に創部7年目を迎えますが、集大成となるチームのつもり。インターハイでの初優勝も狙います」と全国制覇を目標に掲げた。2008年、地元開催となった埼玉インターハイで優勝候補筆頭ながら、霞ヶ浦に敗北した苦い過去がある。「僕たちのチームはまだ発展途上です。いつも生徒たちには、自分たちが新しい伝統、そして歴史を作るんだと言い聞かせています。今年のインターハイで優勝できるようにします」。再び優勝の機運が訪れた花咲徳栄。まずは、3月の全国センバツで全国の頂点を目指す。



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