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【年始特集】4年目の飛躍へ! JOCエリート・アカデミーの過去・現在・未来(4)完【2011年1月6日】

(文=樋口郁夫)



 女子の吉村祥子コーチ(世界女子選手権5度優勝)は、エステティックTBCに通勤しつつ、選手の練習のほか、時に私生活の面倒や相談にものる八面六臂(ろっぴ)の活躍でJOCアカデミーを支えてきた。平日は味の素トレセンに寝泊りし、朝練習から参加する。平均の睡眠時間は「5時間とれたら、うれしい」−。遠征を含めると藤沢市の自宅に1ヶ月近くも帰らないということもあった。

 そんな苦労が報われ、2010年は宮原優がユース五輪で優勝し、宮原と村田夏南子が全日本選手権で3位入賞。中学生の2選手が2つの全国大会優勝と結果を出した。特にうれしかったのは、一期生でありレスリングの初心者だった花田と古市の2人が全国中学生選手権で優勝したこと
(右写真:全国中学生選手権での吉村コーチと花田=上=と古市)

 「柔道経験者だといっても、村田(夏南子)のように全国チャンピオンだったというわけではない。町道場でやっていたレベル。どうやって教えようか、どうやって結果を出させようか、と思いました」というところからスタートし、2年2ヶ月で全国中学生選手権で優勝。ひとつの結果を出せた。「高い目標をもってやってくれたおかげです」と選手を褒め称えた。

 JOCアカデミーの選手の意識の高さは、「全日本のトップ選手と変わりありません」と自信を持って言う。その気持ちが伝わるからこそ、私生活を犠牲にしてでも指導に打ち込み、いまだに選手とスパーリングもこなす。寝る時には体のあちこちが痛む。だが「選手が一生懸命にやっていますから」と笑う。

■今年8月、復活する世界カデット選手権に注目!

 現在の選手の生活は、朝練習は男女合同で実施し、高校生は6時、中学生は6時半から。朝食のあと通学。学校での授業を終えた後、男子は都内の高校や大学、女子は安部学院高での練習に加わる。私生活では、部屋の掃除や洗濯など身の回りのことは自分でやらなければならない。

 中学生の場合、部屋の掃除はともかく、洗濯は親にやってもらっているのが普通ではないか。親元から離れて暮らす大変さはある一方で、お使いや家の用事を頼まれたりすることがないことを考えれば、競技に専念できる環境だ。
(左写真=選手の練習場所兼宿舎の味の素トレセン)

 JOCの方針もあり、マットを降りたところでの人間教育にも力を入れているが、菅芳松監督は「あまり詰め込みすぎては息が詰まる。世界で勝つためには英語が話せることが必要になってくるので、英会話、それと礼儀作法だけは口うるさく言っています」と言う。

 子供を預ける親からすれば、親元から離して生活させることに不安がつきまとうのは当然だ。江藤正基コーチは「女子の場合、入校してから3ヶ月くらいはホームシックに襲われますね。でも、吉村コーチほかがいろいろとフォローし、どの選手もじきに乗り越えてくれます。男子選手はホームシックといったことはあまりなく、強くなりたいという気持ちが最初から勝っていました。選手同士の仲間意識の強さも、寂しさを忘れさせてくれているみたいです」と説明する。(右写真=間もなく1年が経つ乙黒圭祐と向田真優の3期生。今年は飛躍の年!)

 2011年の目標は、国内大会で勝つことのみならず、11年ぶりに復活する世界カデット選手権(8月、ハンガリー)での好成績。江藤コーチは「優勝してもらう」と強調する。JOCアカデミーは単に人間形成をする場ではなく、勝つためにつくられたチーム。「勝つことで、ここにいさせてもらえることを忘れてはならない。他のチームの選手よりもプレッシャーは出てくるはず。そうであっても、それを乗り越えて勝たなければならない」と厳しく言う。

 自らも自衛隊という“プロ集団”に所属し、結果が出なければ「さようなら」という世界にいただけに、こうした勝負の世界の厳しさを教えることも忘れてはいない。もちろん目先の勝利だけを追うことはしない。最後の目標は世界で勝つことであり、オリンピックで勝つことだ。

■「この環境で練習していけば、強くなれる」と口をそろえる選手たち

 崇高な夢、連帯、厳しさ−。こうした環境下で、選手たちの上を目指す気持ちも高まっている。全日本選手権で、レスリング歴1年9ヶ月にして女子55kg級3位入賞を果たした村田夏南子は「ロンドン五輪までに吉田(沙保里)越えを果たしたい」とまで言う。練習やいろんなプログラムに追われる生活であっても、「強くなるために来たのですから、苦にはなりません」ときっぱり。「この環境下で指導を受けていけば、世界で勝てるようになれると思う。練習だけでなく、食事とかも充実している。でも、一番大切なことは、自分の頑張りだと思います」と言う
(左写真=全日本選手権で吉田沙保里に挑んだ村田)

 同じく女子51kg級で全日本3位となった宮原優は「来たばかりの頃は、慣れず、ホームシックになったりもした」と、3年前のスタート時を振り返る。しかし「仲間が増え、安部学院高校の先輩もよくしてくれ、乗り切れました」とのこと。「いつでもトレーニングができる環境であるので、鍛えることができる」と話し、村田と同じく、「この環境で練習していけば、強くなれると思います」と強調する。高校時代に世界選手権に出場できるよう、「全力を尽くしたい」と言う。

 0から1をつくることは、1を10に変えることよりも大変だと言われる。その困難を乗り越え、予想以上の速さで基盤を築いたJOCアカデミー。2011年はさらに強固な基盤をつくり、世界へ飛躍する元年としたい。



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