【特集】「気持ちで勝ち取った優勝です」…女子51kg級・甲斐友梨(アイシン・エィ・ダブリュ)【2010年1月30日】

(文・撮影=樋口郁夫)


■甲斐友梨の試合結果
 1回戦   BYE
 2回戦  ○[2−0(3-1,2-0)]Ekatarina Krasnova(ロシア)
 3回戦  ○[2−1(1-0=2:02,TF0-6=1:45,1-1)]Tsogtbazar Enkhjargal(モンゴル)
 準決勝 ○[2−0(3-0=2:06,4-2)]Tatyana Bakatyuk(カザフスタン)
 決  勝 ○[2−1(0-1,BL-3,2-1)]Alexandr Khout(ウクライナ)

 世界銅メダリストの強さなのだろうか、それとも五輪代表選手(伊調千春)を破って日本一に輝いた選手の意地か−。女子51kg級の甲斐友梨(アイシン・エィ・ダブリュ)が、何度もピンチを迎えながらも、その度に驚異的な粘りを発揮し、ロシアで行われる最高レベルの国際大会「ヤリギン国際大会」のチャンピオンに輝いた(右写真=優勝を決めた直後の甲斐)

 破ったのは昨年の欧州チャンピオン(エカタリナ・クラスノバ=ロシア)、アジア・チャンピオン(タチアナ・バカチュク=カザフスタン)、48kg級でアジア・チャンピオンに輝き北京五輪のマットに立ったモンゴル選手(エンフジャルガル・ツォグトバザル)、ウクライナの強豪(アレクサンドラ・コート)。バカチュクには昨年7月のゴールデンGP決勝大会で負けた雪辱を果たした。

 闘ったすべての試合で逆転勝ちのある内容。決勝のコート戦は第1ピリオドを取られ、第2ピリオドもラスト10秒まで0−3でリードされている展開。だれもが甲斐の銀メダルを思い浮かべた試合だった。

 だが甲斐は「最後の1秒まであきらめませんでした」ときっぱりと言い切った。「今年こそ世界チャンピオンになるという気持ちがありました。絶対に負けたくなかった」。だれもが口にする言葉ではあろう。だが、世界銅メダリスト、そして全日本チャンピオンのその気持ちは、そうでない選手のそれより明らかに違うことを感じさせてくれた逆転勝ちの連続。

 「今までも『最後の1秒まで』という気持ちを持っていたけど、できなかった」と言う。勝利への執念は実績を積み重ねてこそ確固たるものとして発揮されることを示してくれた優勝だった。

■今年の世界選手権に「行くことは当然」と自信を見せる

 もっとも、反省材料のある大会だった。「今までやってきたことを出そうと思って臨みました。組み手です。でも、組み手にこだわるあまり、腕を取られることが多くて空回りしてしまい、どう闘っていいか分からなくなったんです」と言う。それなら組み手にこだわらない以前のレスリングに戻そうと思ったが、混乱してしまってどんなレスリングをすればいいか分からなくなったそうだ。

 「自分の持っているものを出せない試合でした」。点数をつけるとしたなら「下の方」と言う。しかし、こうした状況であっても勝利につなげられるのが強い選手。「今までなら、そう感じた時点で負けていたと思います。そうした状況でも、勝つ気持ちを持ち続けられたのは進化していることだと思います。絶対に負けない、ということに目覚めたとでもいいますか…。気持ちで勝ち取った優勝です」と語気を強めた。

 日本では経験することのない氷点下30度にもなる極寒の地での試合。移動に24時間以上もかかるなど旧ソ連の選手に比べれば条件は悪い。マット外でのアクシデントもあった。出場選手数が多すぎて午前と午後のセッション間がほとんどなくなり、ホテルにも帰れない変則スケジュール。準決勝の直前の試合ではチャレンジをめぐって判定が紛糾し、スタンバイしながら20分以上も待たされる運営の不手際…。

 「今まで経験したことのないことばかりでした。でも、これもいい経験ですね。こうしたことを経験できて、よかったと思います」と振り返り、吸収することの多い遠征だったことを強調した。

 海外で表彰台の一番高いところに上がるのは、昨年6月のオーストリア・オープン以来2度目(左写真=表彰台の甲斐)。だが、日本の2番手として出場したその時とは明らかに違う。表彰台での表情は、まぎれもなく世界チャンピオンを目指しての顔だ。「世界選手権へ行くことは当然と思っているんでしょ」という問いに、にっこり笑い、「伊調選手が出てきても、堀内選手(優=2008年全日本チャンピオン)がカムバックしてもですよね」と聞くと、「ええ。世界チャンピオンを目指していますから」−。力強い言葉が帰ってきた。


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