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【特集】レスリング未経験ながらもA級審判へ! 全日本選手権を目指す桑田信明さん【2010年12月2日】

(文=樋口郁夫)



 11月27〜28日に東京・駒沢体育館で行われた第1回全国中学選抜大会。場内アナウンスのマイクを持ち、観客に進行等をアナウンスをしていたのが、東京都協会の広報を務める桑田信明さん(左下写真)。レスリングの経験はないものの、今年、日本協会の審判A級ライセンスも取得した。今後は大会の裏方スタッフのみならず、マット上でも「レスリングに貢献していきたい」と希望を話す。

 スポーツ歴は少年時代が野球で、それ以外はバレーボールと柔道を少し。キッズ・レスリングで選手経験のない審判は数多くいるが、日本協会のB級ライセンスを取得する審判はそう多くはいない。まして全日本選手権も裁く資格であるA級ライセンス取得になると数えるほど。10月の全日本大学グレコローマン選手権(駒沢体育館)では、チェアマンとしてさっそく大ミスをしてしまい、高田裕司専務理事から厳しい叱責を受けた。それでも、めげたりはしない。

 「怒られ、批判を浴びながら、うまくなっていくものだと思っています」と、通るべき試練と受け止め、今後の糧(かて)にしていく姿勢だ。審判とは、正しくやっても評価されず、間違うと厳しい非難を受け、微妙な判定の際には必ずどちらかの陣営から厳しい言葉を投げ掛けられる、という割の合わない職務だが、足を踏み入れた以上、全日本選手権でのレフェリングを目指して努力を続ける腹積もりだ。

■子供の親離れにより、大会を裏から支える方へ回る

 レスリングとの出合いは、この大会の38kg級で2位に入った長男・夏陽亜(なびあ)君が幼稚園の時に高田道場でレスリングを始めた8年前にさかのぼる。現在はGOLD KID’Sでレスリングを続けており、ずっと成長を見守ってきた
(右写真=長男とともに。「戦争をなくすことに貢献できる人間になってほしい」と希望する)

 しかし、子供によって違うが小学校高学年くらいになると、自立心の強い子は親離れを始める。「ボクがセコンドにつくのを嫌がるようになりましてね」。そうなってくると大会では傍観者になってしまい、物足りなくなってくる。そこで“特技”で大会を支えようとなった。

 特技とはアナウンス。小さい頃からマイクを持ってのパフォーマンスが好きで、ひと頃、結婚式やイベントの司会、さらに女子プロレスのリングアナウンサーもやったことがあるプロフェッショナルでもある。場内アナウンサーとして大会を支えた。

 さらにキッズの審判も始めた。これも「大会運営に協力したい」という気持ちから。そのうちに、お世話になっている自由ヶ丘学園高の古里光広監督(東京都協会副理事長、日本協会組織普及委員)から、「高校の試合の審判をやってくれないか」との依頼があり、「お世話になっているので、恩返しがしたい」と受け入れることになった。

 国際レスリング連盟(FILA)のルールを研究し、B級ライセンスからスタート(注=キッズ審判の経験があるため、C級は免除)。主に高校の大会をさばき、今秋のA級取得へとつながった。

■体力のある子は、勉強でも頑張れる!

 今後は、アナウンスと審判の双方で全日本レベルの大会を支えることが多くなりそう。古里副理事長のつてで、昨年末のジュニアスターカップで場内アナウンスをやり、今年5月の明治乳業杯全日本選抜選手権では音響係を務めている。審判としての“全日本デビュー”が待たれるが、「上が決めることです。認められるように頑張りたいです」と言う。

 「自分の関わっていたキッズ・クラブ出身の選手が出場する全日本選手権に、審判として参加できたら、とても幸せな気持ちになると思います」と、向上心は十分だ
(左写真=10月の全日本大学グレコローマン選手権は審判を務めた)

 今の職業は塾経営。子供を「レスリングさえ強ければ、それでいい」という育て方はしておらず、勉強にも力を入れさせてきた。そのうえでもレスリングは役立っているという。「体力のない子は、勉強でも集中力が続かないんです。レスリングに比べれば、勉強は楽なんですよ。体力は精神力につながり、勉強のうえでも役に立つんです」と話す。

 では、そのためにレスリングを押し付けてきたのか、というと、そんなこともない。「サッカー、ピアノとやりました。いろんなことをやらせて、一番やりたいものをやってくれればいいと思っていました。結局、レスリングを選んでいる。嫌いなら、ここまでやっていないでしょう」と、あくまでも本人の意思でここまできたと説明する。

 それだけに、親もレスリングに熱中できたのではないか。審判としての技術向上に一番必要なことは「自信を持ったジャッジ」と言う。「間違うことを恐れてあいまいな判断をするより、自信と信念を持ってジャッジすること。この姿勢が一番必要なことだと思います」−。

 審判とは、選手あがりの人だけがやるべき職務ではない。大切なことは技術向上の気持ちであり、レスリングを愛する心。選手経験のない桑田さんだが、その2つを持っており、やがて全日本選手権のマットでその姿を見る日がくるだろう。



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