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【特集】「キッズに大切なことは基礎体力と攻撃精神」…押田博之審判委員長【2010年10月25日】

(文=樋口郁夫)




 押立杯関西少年少女選手権の前日、初めて全国少年少女連盟の押田博之審判委員長を招いて審判クリニックが実施され、審判資格獲得希望者のほか、「とりあえず話をきいてみたい」という父母の約30人が受講した。

 同大会にからめて審判クリニックが開催されたのは初めて。審判クリニックは、キッズ・レスリングの普及のために全国で開催している。今年は東北大会(仙台)のほか、岐阜・高山市、千葉・松戸市で実施。来年2月には福井・福井市が予定されている。

 押田審判委員長は審判クリニックで、「審判の一番重要な任務はけがをさせないこと」を力説。危険な体勢になったらすぐにストップをかけることの重要性を訴えた。「早く止めすぎだ、という抗議が来るとは思うが、事故が起きてからでは遅い」とし、試合をさばく人間としての心構えを話した
(右写真=試合を見つめる押田審判委員長。右は福井クラブ・白井正良代表)

 レフェリングに関しては、「ぶれない審判」を注文。試合ごとに判断が違ってしまっては信頼を得られないとし、「こっちの試合では場外をとったのに、別の試合の同じケースでは取らなかった、では駄目」と、常に同じ視点でのジャッジを求めた。

 「子供がレスリングをやっている親は、一度、レフェリーをやってほしい」とも提言する。試合でなくとも、マットに上がることで子供がどんな気持ちでやっているかを体験できるからで、「講習会であっても、自分でやるとなると、多くの人に見つめられ、ものすごく緊張してました。そのことが分かれば、試合をやる子供の気持ちが分かりますよ」と言う。

■技術はなくとも、負けん気がすごかった若き日の笹本睦

 同審判委員長は、東京・木口道場のコーチも長年務めており、キッズ・レスリングの変遷(へんせん=移り変わり)をつぶさに見ている。以前に比べて選手が使う技は高度になったというが、「それででいいのかな?」という疑問を呈している。子供に一番必要なことは「基礎体力とバランス感覚の養成」という持論を持っているからだ。

 「レスリングの基本はタックルであり、ネルソン、横崩し。こうしたベースをしっかり教え、前に出て攻めることをもっとしっかりマスターさせるべきだ」と訴える。「返し技で1点を取って、あとは逃げて勝つ選手がいる。親は勝ったことを喜び、ほめている。そんなレスリングで将来につながるかな。テクニックは大人になってからでも身につく。キッズのうちに必要なことは、前に出て攻撃すること」と話した。

 五輪に3度出場しているグレコローマン60kg級の笹本睦選手は、木口道場での教え子。いったん野球に取り組んだが、レスリングに戻ってきた。「ボクが高度な技は知りませんからね」と、決してハイレベルの技など教えなかったそうだ。思い出に残っているのは、笹本選手の高校生時代。30kgの体重差があったにもかかわらず、スパーリングが始まるとマットを降りない。やられても、やられても向かってくる負けん気があったそうで、1時間近く続くこともあったという。

 「高校時代は国体3位が最高で、全国大会無冠ですよ。それでオリンピックに3度出場。若い頃に高度な技を身につけることが必要なのか…。(タイトルを取れなくとも)あきらめずにやれる精神力が、オリンピックにつながったと思います」。若い頃に必要なことは、体力であり、やられても向かっていく闘争心の養成という信念は、笹本選手の成長を見てできたものかもしれない。「だれもがチャンピオンになれるわけではありません。でも、あきらめずに一生懸命に努力する大切さを知ってほしい。逃げて勝つ姿勢で、その気持ちが身につきますか?」と言う。

 少年野球は、けがの防止と小手先の技に走らないためにカーブ禁止という特別ルールを採用している。それにならい、「がぶり返しなどの禁止や、パッシブ(消極性)という特別ルールの導入は?」という問いには、「理事会が決めることですね」と話すにとどまったが、“攻撃のない勝利では将来がない”という信念が、言葉の端々に表れていた。



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