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【特集】輝く高校三冠王! 高橋侑希(いなべ総合)、保坂健(埼玉栄)、山本康稀(花咲徳栄)【2010年10月3日】

(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)



 高校レスリング界の正式な呼称ではないものの、春のセンバツ(全国高校選抜大会)、夏のインターハイ、秋の国体(フリースタイル)の3大会を制した選手を、いつしか「高校三冠王」と呼ぶようになった。

 今大会のフリースタルには、春夏を制した選手として50s級の山崎達哉(東京・自由ヶ丘学園)、55s級の高橋侑希(三重・いなべ総合)、66s級の保坂健(埼玉・埼玉栄)、84s級の松野裕也(茨城・霞ヶ浦)、96s級の山本康稀(埼玉・花咲徳栄)の5選手がエントリー。高校三冠王に挑戦し、うち55s級の高橋侑希、66s級の保坂健、96s級の山本康稀が達成した。高橋と山本は2年生での快挙
(右写真=左から山本、高橋、保坂)

 負ける要素が見当たらないほどの強さを見せていた5選手だが、やはり三冠王の道のりは簡単ではなかった。84s級の松野裕也は準々決勝で雫田真最(長野・小諸)に不覚を喫し、まさかの脱落。50kg級で抜群の強さを見せていた山崎達哉は、決勝戦で1年生の高谷大地(京都・網野)に1−2と逆転負け。来年は55kg級に上げる予定で、50kg級最後の試合を優勝で飾れなかった。

■ユース五輪も入れて“スーパー五冠王者”高橋侑希

 8月のユース五輪で金メダルを獲得し、同世代の世界チャンピオンの称号も得た高橋は、決勝戦前に、自分の目の前で、来季からのライバル山崎が敗北。「びっくりしてしまった」と動揺した。「その影響はない」と否定したが、決勝では立ち上がりにタックルを受けて失点する場面も。だが、すぐに立て直して、1ピリオドでフォール勝ちで“五冠”(三冠王+JOC杯、ユース五輪)に花を添えた
(左写真=優勝し、応援席に5本の指を立てた高橋)

 1年で高校チャンピオンになったため、研究されてしまった高橋は、今季は結果こそよかったが、センバツは失点だらけ、インターハイは大会直前にけがをするなど内容が伴わず、「満足してない」状況だった。そんな中で出場したユース五輪では、初顔合わせの相手に自分のレスリングを展開。「今季で一番の内容だった」と振り返った。「これを国内でできればいいんだ」と、国体では研究されていようが、自分のレスリングを貫いた。

 五冠を達成して高橋が掲げる次の目標は、12月の全日本選手権。「ロンドン五輪の選考にからんでいきたい」と、きっぱりと未来を見据えた。

■1年で大化け! 保坂健も有終の三冠王

 66kg級の保坂も三冠王者になった
(右写真=決勝で闘う保坂)。だが、保坂は大会前に右ひざのじん帯を損傷。けがの影響で豪快なタックルは出せず、「組み手でしのいだ」と本来の動きはできなかった。だが、埼玉栄の野口篤史監督が「実力ではこの世代で2つほど頭が抜けている」と話すように、文句なしの優勝。同監督は「あいつのおかげで、この1年間楽しかったよ」と、監督冥利に尽きる1年を振り返った。

 これに対して保坂も「野口監督は僕にとって第2の親父だった。レスリングだけでなく、私生活もよく面倒を見てくれたんです。自宅でご飯を食べさせてくれたり、銭湯に連れて行ってくれて、一緒に湯船につかったり。楽しかった」と、師弟愛で勝ち取った三冠王を強調。大願成就した保坂だが、「三冠王で終わりじゃない」と余韻に浸らず、「オリンピックに出る!」と目を輝かせて前を向いた。

■山本康稀も2年で三冠王! 「高橋君にちょっと嫉妬します(笑)」

 96s級の山本康稀も快挙を達成し、2年生で三冠王者になった。同級としては決して大柄でない山本の強みは、「背筋力」と「走力」。試合中は休むことなくマット上を走り回って相手をかき回す。「練習ですごく走りこんでいる」と自慢の脚力を生かした試合運びで、ばてた相手には鋭いタックルを一閃! これでさらにパワーがつけば、さらなる飛躍も望める
(左写真=決勝で闘う山本)

 全中チャンピオン〜高校チャンピオンと順調に成長を見せる山本だが、どんなに成績を残しても、高橋の成績には追いつかない。17歳でユース五輪に出場した高橋を引き合いに出すと、「ちょっと嫉妬しちゃいます(笑)」と苦笑した。高橋に対抗して山本は壮大なプランを掲げた。「来年はグレコローマンも取って、五冠王になりたいです。そして、高校で全日本チャンピオンになります!」−。



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