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【特集】返り咲くべくして返り咲いた世界一…女子63kg級・伊調馨(ALSOK)【2010年9月10日】

(文=保高幸子、撮影=矢吹建夫)




 風格でなるべくして世界チャンピオンに返り咲いた。女子63kg級の伊調馨(ALSOK)。2008年北京五輪後、1年間のカナダ留学を経て今年勝ち取った2007年以来の世界選手権代表権。昨年の世界チャンピオンの西牧未央(現至学館大大学院)や、現役復帰した山本聖子(スポーツビズ)を撃破して示した強さは、世界でも健在だった(右写真)

 世界の舞台が2年ぶりであり、練習環境が変わったことで、今までとは何もかもが違う。住まいを東京に移し、姉・千春(今春から青森で高校教諭)と離れて暮らし、自衛隊や男子の全日本合宿での練習が多くなった。しかし、そうなったことで自分の中でのレスリングに対する気持ちも変わってきた。

 「練習が楽しい。まるで初心者になった気分」と言う伊調が今取り組んでいるのは、男子のレスリング。伊調にとっては「今までは本能でやっていて、全く考えていなかった」こと。男子の練習にふれて、その違いに驚いたという。今は説明できるタックル、説明できるレスリングをやっている。「やればやるほど面白くなってきた」というレスリング。楽しむこと、これが「引退」とまで口にした北京五輪直後の伊調と、今の伊調の違い。力の源なのではないだろうか。

■必殺技のまたさきを封印(?)し、アンクルホールドにこだわる

 今大会では、初戦(2回戦)のハンナ・ヨハンソン(スウェーデン)戦の第1ピリオド、アンクルホールドでポイントを獲得。準決勝のマリアナ・サスティン(ハンガリー)戦ではアンクルホールド3回転
(左写真)。エレナ・ピロジコワ(米国)との決勝戦でも、タックルから展開してのアンクルホールドを披露。

 今大会では、得意技のまたさきを忘れさせるほど、アンクルホールドを決めていた。「タックルからすぐ展開する練習をしてきた。アンクルはうまくできた事のひとつ」と、本人も満足げ。

 一方で、「自分のレスリングが半分もできていない。悔しい部分もあります。まだ考えながらやっている。体についていないです」と反省点も明確だ。「(心に)昔の自分がいて、早すぎるかな、と思ってしまいました」というように、決勝戦の第2ピリオドは残り30秒まで攻めず、見てしまった。今までは1−0であっても、勝ちにこだわる試合だったが、「どんどん攻めるレスリングを目指します。勝ちにこだわるんじゃなくて、勝ち方にこだわりたい」と話す。「理想は1分過ぎから(攻撃すること)」だという。

 2004年アテネ五輪以降の王座を維持するためだけのレスリングから、一転して、「点を取りたくなってきた」と笑う。「今年は63kg級の強い選手は67kg級に出ていたりして、強い選手はいなかった。勉強という意味では、相手より自分のレスリングがどうだったかが大きい。レスリングを新しくして、不安もあったけど、(優勝した事で)来年や五輪の頃にはもっと強くなっていると確信できました」と自信満々だ。こうなった伊調は、もう誰も止める事ができないのではないだろうか
(右写真=地元のテレビ局も注目)

 いつも一緒だった姉の千春のことを聞かれると、「心の中では一緒に闘っている」と答えた伊調。「君が代を聞いているときは千春のことを考えていました」と答えた。心の支えである姉・千春も、一緒に闘っているのかもしれない。

 独り立ちし、理論を身につけた伊調。ロンドン五輪では絶対王者として華やかなレスリングで会場を沸かせることを期待したい。



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