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【特集】1階級上の世界女王を一蹴して世界V8…女子55kg級・吉田沙保里(ALSOK)【2010年9月10日】

(文=車屋綾香、撮影=矢吹建夫)




 絶対女王は、今年も絶対女王であった。女子55kg級の吉田沙保里(ALSOK)が世界選手権8連覇、オリンピック2連覇と合わせると世界V10の偉業を成し遂げた。

 優勝を決めると、力強くガッツポーズを決めて、お決まりの(?)勝利のバック転をマット上で披露
(右写真)。セコンドには全日本チームのコーチである父がいて、応援席には吉田の勝利を祈るように手を合わせて見守っていた母がいて、それぞれがこの快挙を祝福した。

 初戦から安定した闘いを見せ、決勝へと駒を進めた。決勝の相手は、昨年の世界選手権59kg級優勝のユリヤ・ラトケビッチ(アゼルバイジャン)。1階級落としてきたうえに、昨年のチャンピオンということもあって、絶対女王であろうと油断は決して許されない。「1つ上の階級だった選手なので、力は強いだろうけど、思い切り闘うだけ。相手の攻撃に対抗するだけでなく、かわしてポイントを取るような試合をしたい。スピードを重視して、自分のスタイルを貫きたい」と意気込み、決勝のマットへ上がった。

 決勝は、第1ピリオドで持ち味であるタックルを仕掛ける。封じられる場面はあったが、第2ピリオドでは、その高速タックルがさえて、3点タックルを2度決めて優勝を決めた
(左写真)

 1階級上で世界選手権優勝を持つ選手に対しても、吉田のタックルは決まる。これは吉田のタックルの驚異を示す証であろう。ただ、「入ってばかりだと腰が痛いので」と、腰を痛めないような戦術を考えていかなければいけない必要性を感じている。

■“攻撃は最大の防御”で勝ち続ける

 試合を終えて、8大会連続8度めの世界選手権優勝の偉業に、まずは「気持ちいい!」と一言。「水泳の北島康介選手が2008年のアテネ五輪で『ちょー気持ちいい!』と言った時の気持ちのようなものですね」と、沙保里スマイルを浮かべた。「休養は欲しいですか?」という記者の問いには、「明日も練習したいくらいです、本当に気持ちがよくて」と答えるほど、勝利の喜びを感じていた。

 「攻める人が強い、攻める気持ちが大切」。守って勝ちにいく選手もいるが、吉田はいつも常に攻めて攻めて勝ちにいく選手。絶対女王を誇る吉田にとって、勝ち続けるために“攻撃は最大の防御”であることを表している。

 世界V12の金字塔を誇る世界最強のレスラー、アレクサンダー・カレリン(ロシア)へとまた一歩近づいた今回の世界選手権。来年の世界選手権、そして2012年ロンドン五輪を制すれば、吉田の世界一の記録はカレリンと並ぶことになる。「オリンピックの1年前となる来年が、一番厳しい大会になると思う。練習を怠らずにしていきたい」と、今後に関して答えた。

 栄和人・女子強化委員長(至学館大教)から「歳をとっても、強さが増している」と言われたことがうれしかったと吉田。「たくさんの人から研究されてきているので、その研究に対抗できるように、多くの技を使いこなすことによって相手を惑わせるようにしたい」と続けた。

 まだまだ進化を止めない世界の女王の今後が楽しみである。



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