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【特集】笑顔のない銀メダルだが、波及効果は大きい…男子グレコローマン60kg級・松本隆太郎(群馬ヤクルト販売)【2010年9月8日】

(文=車屋綾香、撮影=矢吹建夫)




 初日の男子グレコローマン3階級(55・66・96kg級)でメダル獲得とならなかった日本チーム。その負のスパイラルから抜け出させてくれ、日本のメダル獲得第1号となったのはグレコローマン60kg級の松本隆太郎(群馬ヤクルト販売)だった。スペイン、ウクライナ、グルジア、韓国(2004年アテネ五輪王者)に勝っての決勝進出。決勝戦のハッサン・アリエフ(アゼルバイジャン)に1−2で敗れ、銀メダルを獲得した。

 もっとも、銀メダルでは満足できない。決勝のあと、間をおかずに行われた表彰式で笑顔はなし
(右写真)。表彰式が終わり、カメラマンのリクエストでかろうじて笑ってみせたものの、その表情は硬く、銀メダルでは満足できない様子がありあり。あくまでも世界一を目指している選手らしい試合後だった。

■試合後、父・説男さんに「ありがとう」と「誕生日おめでとう」

 コンディションは最高によかった。「1回戦から調子が良かった」と言うように、足もよく動いていてスタンド・ポジションから果敢に攻めてポイントを取りにいく姿が印象的だった。コンディションづくり以上に、松本の集中力には度肝を抜かされる。マットに上がったものの、進行のミスでマットを下ろされたり、試合が始まっているのに時計が動いていずに中断するなど、なかなかスムーズに進まない中でも、集中力を決して切らすことなく試合へ臨んでいた。

 決勝戦の相手のアリエフと対戦するのは、今年の3月のハンガリー・カップ以来で2度目。その時と同様、勝つことはできなかったが、松本は「決勝が一番楽しめた」と試合を振り返った。もちろん、「最高に燃えた」という意味だろう。力及ばなかったが、これまでのすべてをぶつけることができた試合だった
(左写真=全力を尽くして闘った決勝)

 決勝を終えて、日本から応援へ駆けつけてくれた家族(父、母、妹)と面会。父の説男さんに「おめでとう」と声をかけてもらい、握手を交わした松本から出た言葉は、「ありがとう」と「お誕生日おめでとう、少し遅くなったけど」という言葉だった。

 前日(9月6日)は父の誕生日だったそうで、銀メダルは最高の誕生日プレゼントになった。説男さんは「(家族全員で)応援に来たかいがありました」と、まず兄の殊勲に喜びの顔を見せ、「まだ、弟(フリースタイル84kg級の篤史)の試合もあります」と、もう一度、この感激を味わう腹積もりだ
(右写真=祝福してくれた父と松本)

■グレコローマン・チームの意地を見せた!

 どちらかといえば、フリースタイルの陰に隠れがちなグレコローマン。「見返す、というわけではないけれども、フリーに負けていられないし、グレコの意地をみせたかった」の言葉のとおり、松本はグレコの意地を見事に見せつけてくれた。

 父への誕生日プレゼントと試合を控えている弟への刺激のほか、不祥事で出場停止となっている母校・日体大レスリング部(9月28日解除予定)の学生選手へのいい足がかり、そして日本チーム全体へと、メダル1号となった松本の活躍が与えてくれたものはとても大きい。

 今の全日本チームは積極的に海外遠征を行っている。松本は「今回の結果は、たくさんの海外経験を積むことができた成果です」と言い、全日本チームの強化体制が間違っていないことを示してくれた。ロンドン五輪まで、あと2年。国内予選をはじめとして乗り越えなければならない闘いはたくさんある。

 その試練を勝ち抜き、ロンドン五輪では、今回一歩届かなかった一番高い表彰台へ立っている松本を、ぜひとも見たい。



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