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【特集】世界選手権へかける(21)完…女子48kg級・坂本日登美【2010年9月3日】

(文=増渕由気子)



 2008年の世界女子選手権(東京)で引退した51kg級世界V6の坂本日登美(自衛隊=左写真)が、妹・真喜子(昨年48kg級世界選手権代表)の結婚引退をきっかけに、2012年ロンドン五輪を目指して48kg級で現役復帰。1年半のブランクを感じさせない闘いで5月の全日本選抜選手権で優勝。7度目の世界代表、そして念願の五輪階級である48kg級で初めて世界に挑む。

 2008年北京五輪は55kg級での日本代表を目指した坂本にとって、一番の課題は苦しい減量だった。しかし坂本は「五輪を目指せるのが幸せ」と、苦しさをも楽しさに変えてしまうほど現役生活を満喫。栄和人・女子強化委員長(至学館大教)から「世界最高のレスラー」とお墨付きをもらっており、体重さえクリアできれば世界をも軽く制する見方が強い。

■予想外! 48kg級へ階級ダウンした代償とは…

 だが、物ごとはそう簡単には進まない。6月下旬、全日本合宿中に腰を痛めてしまった。48kg級の闘いは、51kg級よりも構えが低くなる。過度な減量と、復帰直後からのハードトレーニングが響いたのか、勢いよくタックルに飛び込んだところで腰が悲鳴をあげてしまった。「復帰して、練習がしっかりできている時は、楽しくて仕方がなかった。でも、けがをしてリハビリの日々が続くと、考え込んでしまいますね」。

 腰を痛めたことは初めての体験。「同い年の田岡秀規(自衛隊=2006年世界選手権フリースタイル55kg級代表)など身近に腰痛に悩まされて苦労した選手がいましたから、と治るのか不安になりました」
(右写真=腰痛と闘いながら練習していた坂本)

 8月上旬までリハビリの毎日。世界選手権へ間に合わせるため、体に負担のかけないようにタックルの入り方を研究するなど、急ピッチで仕上げてきた。そのかいあって順調な回復を見せ、8月21日の公開練習では、元気にスパーリングまでできるようになった。思わぬ回り道をしてしまったものの、久々の海外戦に加えて、人生初となる海外での48kg級への減量に挑む。

 だが、坂本の目標はブレない。「優勝、これしかない。私という選手の裏には、技術的なサポートなど支えている方がたくさんいます。その人たちの努力を私が優勝という形で証明したいんです」。今回の大会は五輪出場権につながらないが、肩慣らしという気持ちはさらさらない。

■真喜子の支えで世界チャンピオンを目指す

 北京五輪までは妹の真喜子と“姉妹で五輪”が合言葉だった。ただ、このスローガンは、伊調千春・馨が"姉妹で五輪”を成し遂げた状況と少し違う。「伊調選手は48kg級と63kg級。ぜったいにライバルにならない間柄。私たちは場合によっては、同じ階級にもなりえる関係でした」。

 坂本は2001年に世界V2を達成し
(左写真)、国際レスリング連盟(FILA)のベストレスラーに選出され、女子レスリング界では、ナンバーワンの存在だった。しかし、その直後にFILAが五輪実施階級と決めたのは、51kg級ではなく48kg級。当時高校生だった真喜子の方が先に注目されてしまった。

 「なんで、48kg級なの? なぜ真喜子が五輪に近いの?」。自分ではどうしようもない気持ちを押さえきれず、姉妹ケンカが絶えなかった時期もあったという。

 「日登美はロンドンを目指したほうがいい」と復帰を後押ししてくれた真喜子は、現在、専業主婦をしながら坂本のサポートに回っている。5月の全日本選抜選手権大会では、手作りケーキなどの差し入れをして、姉を誰よりも応援していた。「選抜のときは、妹の応援が一番力になったんです。最近もよく妹の家で夕飯をご馳走になってます」。この形が姉妹には一番あっていたのかもしれない。

 「復帰できる喜び、そして妹がついていて、私は一人ではない。けがなどもありましたが、だいぶ(世界選手権へ)仕上がって、気持ちも落ち着いてきました」と坂本。世界の48kg級で鮮烈デビューを飾れるか−。


 坂本日登美(さかもと・ひとみ)=自衛隊、2年ぶり7度目の出場
 1981年1月4日、青森県生まれ、29歳。青森・八戸工大一高〜中京女大卒。青森・八戸キッズでレスリングに取り組み、98年に全国高校生選手権50kg級で優勝。99年に全日本女子学生選手権51kg級と全日本選手権で優勝。00年はアジア選手権で勝ったあと世界選手権で優勝。
 01年に世界V2を達成した後、ひざの手術などで戦列を離れたが、04年に復帰し、05年のアジア選手権で優勝し、世界選手権で4年ぶりに優勝。06年の世界選手権でも勝った。07年は55kg級で北京五輪の道を求めたが失敗。しかし51kg級で3年連続世界一へ。全日本選手権も制した。08年の世界女子選手権で6度目の優勝を達成したあと引退。しかし今年、ロンドン五輪を目指して48kg級で復帰。155cm。



◎坂本日登美の最近の国際大会成績

 《2008年》
 
【10月:世界女子選手権(東京)、51kg級】優勝(20選手出場)
決  勝 ○[フォール、1P0:53(F5-0)] Markevich Maryna(ベラルーシ)
準決勝 ○[フォール、1P1:34(F7-0)]Boubryemm Vanessa(フランス)
3回戦  ○[2−0(TF7-0,TF6-0)]Maroulis Helen(米国)
2回戦  ○[フォール、1P1:11(F5-0)]Bondy Jessica(カナダ)
1回戦   BYE

 
【1月:女子ワールドカップ=団体戦(中国)、51kg級】=個人順位不明
3位決定戦 ○[フォール、1P0:46(6-0)]Aiym Abdildina(カザフスタン)
予選3回戦 ○[2−0(2-0,4-0)]Jennifer Wong(米国)
予選2回戦  BYE
予選1回戦 ○[2−0(4-0,3-0)]Oleksandra Kohut(ウクライナ)

 《2007年》
 
【9月:世界選手権(アゼルバイジャン)、51kg級】優勝(18選手出場)
決 勝  ○[2−0(3-0,2-0)]Ren Xueceng(中国)
準決勝 ○[フォール、2P0:34(TF7-0=1:22,F4-0)]Tatyana Bakatyuk(カザフスタン)
3回戦  ○[2−0(6-2,TF6-0=0:55)]Erica Sharp(カナダ)
2回戦  ○[フォール、1P0:32(F4-0)]Maria del mar Serrano(スペイン)
1回戦  BYE



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