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【特集】世界選手権へかける(16)…男子グレコローマン74kg級・金久保武大(マイスポーツ)【2010年8月29日】

(文=増渕由気子)
 


 今年5月の全日本選抜選手権のプレーオフを制し、世界選手権の日本代表に内定していた鶴巻宰(自衛隊)が、腰のけがで代表権を返上することになった。鶴巻は11月のアジア大会(中国・広州)へ照準を定めて治療する。急きょ代表に選出されたのは、鶴巻に勝って全日本選抜選手権を2連覇した金久保武(マイスポーツ=左写真)。柔道あがりで大学からレスリングを始め、競技歴わずか5年5ヶ月で世界選手権代表を手に入れた。

■憧れの松本慎吾・日体大監督と同じく、社会人2年目で世界選手権初出場

 「(日体大監督の松本)慎吾先輩から代表繰り上がりの連絡をもらいました。ラッキーな部分もありますが、今まで教えてもらった恩返しができ、うれしく思います。大学から始めても強くなれることを証明できました」(金久保)。

 金久保の師匠の松本慎吾(2004年アテネ・2008年北京両五輪代表)からは、「今までやってきたことは間違っていなかった。ラッキーなことも実力のうち。チャンスをものにしろ」と、あたたかいエールで送り出してくれた。

 金久保は、アテネ五輪で奮闘している松本の姿をテレビで見て、柔道からレスリングに転向した。松本監督も高校時代に柔道インターハイ2位の実績を持ち、大学から本格的にレスリングを始めたことで有名だ。

 松本監督は一宮運輸に就職し、社会人2年目で世界選手権の初代表となった。くしくも、金久保も大学を卒業して2年目に世界選手権の日本代表へ。恩師と同じ経歴を歩むことになり、「また憧れに一歩近づいた」。数奇な運命に金久保は目を輝かせる
(右写真=世界選手権出場が決まり、新たな気持ちで汗を流す金久保)

 55s級の長谷川恒平(福一漁業)、60s級の松本隆太郎(群馬ヤクルト販売)、84s級の斎川哲克(両毛ヤクルト販売)と同じく日体大を練習拠点としている。晴れて世界代表選手の仲間入りを果たした。松本監督は「全員が後輩としてかわいい存在。ただ、金久保は自分と同じ柔道の経歴がある選手ですからね。2番手での出場であっても、うれしいです」と喜んだ。

 キッズエリートが日本代表の多くを占めるようになった現在、競技歴約5年で世界に飛び出す金久保は快挙に等しい。松本監督によると、レスリングを始めた当初は「筋力がある選手だな」という印象だったという。伸びしろ十分と見込んだ松本監督「たくさん、しごきましたからね」と目をかけて指導。それに応えるように金久保は大学4年で学生チャンピオンになった。

■急成長がゆえに、国際経験が不足! 対策はスタンドで攻め抜く

 ただ、金久保は海外経験値が低いという厳しい現実もある。6月にゴールデンGP予選(グルジア)、7月にゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)とポーランド遠征と、今年だけでも3度の海外遠征を経験したが(他に、8月に練習で韓国へ)、挙げた勝利はわずか1勝。国内では鶴巻をも倒す実力がついたが、海外ではまだ勝つポイントをつかみきれていない。

 海外で驚いたのは、グラウンドのレベルの差。「海外の選手はグラウンドのディフェンスも攻撃的なんです。立ってスタンドに戻そうとしたり、指をつかんで組ませてくれなかったり」。4回の遠征で海外の洗礼を受けた金久保は、一つの結論に達した。「グラウンドで勝負することが自分のスタイルでしたが、スタンドから攻めないと海外では後悔すると感じました」。(左写真=ピトラシンスキ国際大会で闘う金久保)

 グラウンドの30秒間に絞って勝負をかけると、何もできずに終わってしまうことが多かった。「正直、スタンドは苦手です。でも、スタンドから勝負をかけないと、グラウンドでのフェイントがまったく通用しない」。そのために、8月中旬の草津合宿では、ツーオンワンや差して押し出す練習を積んだ。スタンドで相手をばてさせて得意のグラウンドに持ち込む予定だ。

 キャリア5年で世界へ―。「今まで世界選手権なんて見えていなかったけど、少しずつ日本代表なんだなと自覚が出てきました。日本の代表ですから、ひとつでも多くの白星を取りたい。このチャンス、無駄にしたくないです」と力強く抱負を語った金久保。松本監督は初出場の2001年世界選手権で1勝を挙げて13位。「僕は慎吾先輩のコピー」と自負する金久保も、初の世界選手権で初白星を目指す。


 金久保武大(かなくぼ・たけひろ)=マイスポーツ、初出場
 1986年7月1日、神奈川県生まれ、24歳。東京・東海大付高輪台高〜日体大卒。高校時代は柔道の選手。2年生の2006年東日本学生春季新人戦で2位となり、翌07年全日本学生選手権で3位と力を伸ばした。08年の全日本学生選手権で優勝し、同年の全日本選手権に初出場して2位へ。
 09年の全日本選抜選手権で優勝したものの、プレーオフに敗れて世界選手権出場を逃す。同年の後半は、チームの事情で大会出場ができなかったが、10年の全日本選抜選手権で優勝。またしてもプレーオフで敗れたが、当初の日本代表が負傷で世界選手権を辞退したため、繰上げ出場へ。174cm。



◎金久保武大の最近の国際大会成績

 《2010年》
 【8月:ピトラシンスキ国際大会(ポーランド)】
25位(28選手出場)
1回戦 ●[0−2(0-1,0-3)]Ruslan Bel khorev(ロシア)

 【7月:ゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)】11位(20選手出場)
3回戦 ●[0−2(0-1,0-3)]Jakub Tim(ポーランド)
2回戦 ○[2−1(0-3,2-0,1-0]Yauhen Bachko(べラルーシ)
1回戦  BYE

 【6月:2010年G・カルトジア&V・バラバーゼ国際大会(グルジア)】=21選手出場
敗復戦 ●[1−2(0-1,1-0、-5)]Stepayan Aram(アルメニア)
1回戦  ●[0−2(0-1,0-2)]Ashkat Dilmukhamedov(カザフスタン)

 《2009年》
 
【3月:ハンガリーカップ(ハンガリー)】22位(25選手出場)
1回戦 ●[0−2(0-1,0-3)]Yauhani Silivonchnik(ベラルーシ)

 
【2月:ニコラ・ペトロフ国際大会(ブルガリア)】14位(19選手出場)
2回戦 ●[1−2(1-0,0-1,0-1)]鶴巻宰(自衛隊) 
1回戦  BYE



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