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【特集】世界選手権へかける(14)…男子フリースタイル120kg級・下中隆広(国士舘大ク)【2010年8月26日】

(文=保高幸子)
 


 「大学院の2年間で結果が出なかったら、やめようと思ってました」。そのタイムリミットだった昨年12月の全日本選手権で悲願の初優勝を達成し、5月の全日本選抜選手権でも同じ決勝の相手、荒木田進謙を下し、初の世界選手権の日本代表権を獲得。崖っぷちからはい上がったレスラー、男子フリースタイル120kg級・下中隆広(国士舘ク=左写真)の世界への挑戦が始まった。

■プロ野球の選手を目指していた高校時代、「PRIDE」を見て方向転換

 世界選手権の試合日直前(9月9日)に25歳になる下中。徳島・池田高時代は高校四冠王者に輝きながらも、大学時代はけがに泣かされ、4年生の時はほとんど活躍できなかった。朝倉利夫監督らに勧められて大学院に進まなければ、レスリングはやめていたという。「ほんとうによくしてもらって感謝しています」という下中は、大学院の修士課程2年間で日本一になれなければ、もう普通に就職しようとしていたという。

 2009年6月に行われた全日本選抜選手権では準決勝で荒木田とあたり、敗れて3位。その後、9月の新潟国体で荒木田に勝って優勝した。在学中に日本代表権をかけた大会は、3ヵ月後の全日本選手権しかなかった。そのプレッシャーの中、見事に第一人者である荒木田を下し、初の全日本王者となった。

 「恩返しができた」と、この優勝を謙虚に受け止めながら、これでつながった次の目標、世界選手権に照準を合わせ、レスリングを続けることになった。迎えた5月の全日本選抜選手権。ここで優勝すれば世界選手権代表に決定するという決戦の場。勝つことへの執念は下中が荒木田を上回った。リベンジに燃える前王者にそり投げを決めての優勝は見事だった
(右写真=赤が下中)
 
 レスリングを始めたのは高校入学後。それまではプロ野球選手を目指し、帰宅して父親の特訓も受ける星飛雄馬さながらの生活だった。砲丸を投げても陸上部の正選手を押さえて地区で優勝するなど、スポーツは万能。高校野球の強豪校からもスカウトが来るほどの選手だったが、下中が選んだのはレスリングだった。

 そのころ総合格闘技イベント「PRIDE」が全盛で、海外選手のバックボーンに多かったレスリングに興味を持った。今でも、レスリングは「プロの格闘技を見るのと同じように観戦するのが大好き。よく映像を見ています」というほどの研究熱心。世界選手権はそんな今まで見ていた選手たちと試合をすることになる。

■一番闘いたい相手は、五輪2連覇のアーチュール・タイマゾフ(ウズベキスタン)

 下中は大舞台で臆するような選手ではない。「1回戦から強豪と当たりたいですね」と鼻息を荒くし、「一番はやはりタイマゾフ(ウズベキスタン=2004アテネ・2008北京両五輪優勝)。あとはマスミ(イラン)も興味があります」と、世界をけん引する選手との対戦を熱望している。マスミは体格も近く、参考にして見ているという。

 4月からは町田市にある中学校で非常勤講師をしており、夏休み以外は週に3、4回しか練習ができない状況。しかし生まれ持った万能さと人一倍の努力と研究で勝ち取った代表を無駄にするつもりはない。 「もちろん優勝は目指しますが、世界のレベルをつかめれば一番いいですね。次につなげられれば…」
(左写真=世界選手権へ向け最後の練習に励む下中)

 世界選手権の男子フリースタイル最重量級は最終日(9月12日)に行われ、最後の決勝がフリー120kg級となる予定だ。「花形ですよね。国内とは違います。ワクワクします」。野球では大リーグのマグワイアやサミー・ソーサ(ともにホームラン打者)といった豪快な選手が好きだった。今年、日本の頼れる豪快な最重量級となり、世界でも存在感を示す事ができるか。下中の挑戦は、2012年ロンドン五輪に向かって始まったばかりだ。


 下中隆広(しもなか・たかひろ)=国士舘大ク、初出場
 1985年9月9日、徳島県生まれ、24歳。徳島・池田高〜国士舘大卒。中学時代は野球の選手。徳島・池田高からレスリングを始め、2003年に高校四冠王者(全国高校選抜大会、インターハイ、全国高校生グレコローマン選手権、国体)へ。しかし、国士舘大に進んだあとは、けがのため特別な実績を残せなかった。
 卒業後に復帰し、09年全日本選抜選手権3位を経て、国体で優勝し、全日本選手権でも初優勝。10年に全日本選抜選手権で優勝し、世界選手権の代表へ181cm。



◎下中隆広の最近の国際大会成績

 
《2010年》
 【5月・アジア選手権(インド)】
=9位(9選手出場)
1回戦 ●[0−2(0-2,0-6)]Aiaal Lazarev(キルギス)

 
【2月:デーブ・シュルツ国際大会(米国)】=12選手出場
敗復2 ●[0−2(0-3,1-4)]Aaron Anspach(米国)
敗復1 ○[棄権]Joginder Kumar(インド)
2回戦 ●[フォール、1P1:15]Les Sigman(米国)
1回戦  BYE



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