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【特集】世界選手権へかける(13)…男子グレコローマン55kg級・長谷川恒平(福一漁業)【2010年8月25日】

(文=樋口郁夫)
 


 北京五輪後の全日本チームの海外遠征における獲得メダル数は、両スタイルの中で最高。男子グレコローマン55kg級の長谷川恒平(福一漁業=左写真)は、世界選手権のメダル獲得こそ昨年の米満達弘(フリースタイル66kg級)に先を越されたが、新生・全日本チームのエースにふさわしい実績を残し、2度目の世界選手権へ向かう。

 今年は金色のメダルがない。昨年は冬の欧州遠征2大会に続き、アジア選手権(タイ)、ゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)と優勝を重ね、国際大会4大会連続優勝という勲章をもって世界選手権へ臨んだ。今年は冬の2大会が銅メダルで、ゴールデンGP決勝大会が銀メダル。

 だが、過程の大会で優勝を続けることがすべてではない。長谷川は「去年は優勝が続き、自分の反省点が見つからないまま世界選手権に臨みました。今回は、負けたことによって、自分の負けパターンや負ける技術がはっきり分かりました」と言う。

■負けたことによって、自分の課題が鮮明に見えてきた

 勝っても、試合を振り返って反省点を見つけ、課題克服に取り組むのが理想ではあろう。だが人間、勝っている時はなかなかそれができない。「やってきたことが正しい、と思ってしまいます」と長谷川。勝ち続けている間に自分の負けパターンを知るというのは、至難の業だ。

 確かに、「勢い」というのは大きな武器になる。長谷川は昨年の世界選手権の3回戦(2試合目)で強豪のロシア選手を破ったのは、国際舞台で勝ち続けてきた勢いの部分もかなりあったと振り返る。しかし世界は広く、いろんなタイプの選手がいる。勢いだけで世界一まで勝ち続けることはありえない。4回戦でバージル・マンテアヌ(ルーマニア)という闘ったことのないタイプの選手と当たり、自分の勝ちパターンが通用しなかった。

 ガッツレンチの防御には自信があったが、クロスボディロックから低い位置で転がしてくる攻撃(長谷川は「がぶり返し」と表現=
右写真)には無防備だった。グラウンドの攻撃でもクラッチを組ませてもらえなかった。

 今年は冬の遠征から通じて何試合かに負けたことにより、自分の弱点を知ることができ、克服に努めることができた。「世界選手権の負けで、『長谷川の弱点はここだ』と研究されていたような気もします」と言う。一段上の研究をしなければならないことも感じた。優勝からは見離されてしまったが、長谷川は「今年の方が(=優勝がない方が)いいんじゃないですか」と言う。

■首ひとつ抜けているハミド・スーリアン(イラン)を7〜8選手が追う状況

 今年は、2008北京五輪王者のナジール・マンキエフ(ロシア)が、けがの治療から復帰参戦。昨年以上の厳しさが予想される。だが長谷川は、マンキエフ以上に昨年4度目の世界一に輝いたハミド・スーリアン(イラン)が首ひとつ抜け出ているとし、スーリアンを追って7〜8選手が並んでいると分析する。

 もちろん、その中に自分も含まれているという自負はある。実際に遠征先で合宿をした場合、以前は練習をお願いしても(無名がゆえに)断られることがあったというが、今はそれがなくなった。けがを理由に断られたり(逃げられる?)、やることになっても防御だけに徹してしまわれる場合もあるという。世界に顔と実力が知れ渡っていることは間違いない。

 それによって、研究されてしまったマイナスはある。だが、勢力図もよく分からないままに臨み、「世界における自分の実力を知ること」を主眼においた昨年に比べると、マークする選手が絞れ、闘う相手の手の内を知ってマットに上がれるようになったプラスもある。

 「ロシア、(北京五輪2位の)アゼルバイジャン、去年の世界選手権でそのアゼルバイジャンを破ったアルメニア、デンマーク、トルコ、今年のアジア・チャンピオンの韓国…」。長谷川の頭の中には、先頭集団の選手の手の内がしっかりインプットされている
(左写真=世界選手権を控え全日本合宿で練習する長谷川)

 「だれと闘いたい、といった気持ちはありません。練習なら、五輪王者とやりたいとか、スーリアンと闘いたいとかいう気持ちはありますけど、結果が求められる大会ですから」。目標を一人に定めてしまうと、それに勝つと、そこで気持ちが途切れかねない。目標は「優勝」。最低でも来年につなげるために「メダル」がほしい。だれが相手でも、一戦一戦を全力で闘い、勝ち進んでいく腹積もりだ。

■昨年、勇気をもらったフリースタイル・チームに恩返しを

 昨年は現地入りした日に、米満の銅メダル獲得や60kg級の前田翔吾も3位決定戦に進んだといった報せが入った。自身がロシアを破り、鶴巻宰(74kg級)が五輪王者を破った殊勲は、フリースタイル・チームの踏ん張りに後押しされた部分はあっという。

 今年は大会初日が試合。「流れをつくりたいですね」。受けた恩は返さなければならない。大会スタートに日の丸を揚げ、ぜひとも日本チームを勇気づけてほしい。


 長谷川恒平(はせがわ・こうへい)=福一漁業、2年連続2度目の出場
 1984年11月22日、静岡県生まれ、25歳。静岡・焼津中央高〜青山学院大卒。全国少年選手権4連覇、全国中学生選手権2連覇。焼津中央高時代に02年のインターハイなど7つの全国タイトルを獲得。青学大ではグレコローマンで03年に世界ジュニア選手権に出場し、05・06年の全日本学生選手権でも優勝する一方、フリースタイルでも全日本大学選手権3連覇を達成など。
 卒業後はグレコローマンに専念し、07年全日本社会人選手権優勝。同年の全日本選手権で初優勝を遂げ、08年の全日本選手権でも優勝。09年はアジア選手権で初優勝し、ゴールデンG決勝大会でも優勝。世界選手権は上位入賞を逃した。10年のゴールデンGP決勝大会は2位。164cm。



◎長谷川恒平の最近の国際大会成績

 《2010年》
 
【7月:ゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)】2位(15選手出場)
決  勝 ●[0−2(0-1,0-4)]Peter Modos(ハンガリー) 
準決勝 ○[2−0(1-0,3-1)]Orkhan Ahmadov(アゼルバイジャン) 
2回戦  ○[2−1(4-0,0-2,?)]Lee Jun Baik(韓国)
1回戦  ○[2−0(1-0,4-0)]Georgi Gvenetadze(グルジア)

 【3月:ハンガリーカップ(ハンガリー)】3位(23選手出場)
3決戦  ○[2−0(1-0,1-0)]Marat Garidov(カザフスタン)
敗復活 ○[2−1(1-0,0-1,5-0)]Peter Modos(ハンガリー)
3回戦  ●[1−2(1-1L,TF6-0,0-1)]Lee Jung Baik(韓国)
2回戦  ○[2−0(2-0、TF8-2)]Anders Ronningen(ノルウェー)
1回戦   BYE

 【2月:デーブ・シュルツ国際大会(米国)】3位(13選手出場)
3位決定戦  ○[フォール、1P1:50]Aleksandar Kostadinov(ブルガリア)
敗者復活戦 ○[2−0(1-0,1-0)]Spenser Mango(米国)
敗者復活戦 ○[2−0(5-0,6-0)]Paul Tellgren(米国)
敗者復活戦 ○[2−0(2-0,1-0)]Rajender Kumar(インド)
2  回  戦 ●[0−2(0-1,2-5)]Aleksandar Kostadinov(ブルガリア)
1  回  戦 ○[2−0(1-0,6-0)]Nate Engel(米国)

 《2009年》
 【9月:世界選手権(デンマーク)】
11位(36選手出場)
4回戦 ●[0−2(0-2,0-1)]Manteanu Virgil(ルーマニア)
3回戦 ○[2−1(0-3,1-0,30)]Bekzan Mankiev(ロシア)
2回戦 ○[2−0(1-0,5-0)]Nicola Caradonna(イタリア)
1回戦  BYE

 
【7月:ゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)】優勝(17選手出場)
決  勝 ○[2−0(2-0,1-0)]Haji pour Mohsen(イラン)
準決勝 ○[2−1(0-1,1-0,1-0)]Peter Modos(ハンガリー)
3回戦  ○[2−0(1-0,3-0)]峯村亮(日本)
2回戦  ○[2−0(2-0,3-2)]Rovshan Bayramov(アゼルバイジャン)
1回戦   BYE
  
 
【5月:アジア選手権(タイ)】優勝(11選手出場)
決  勝 ○[2−0(1-0,1-0)]Joginder Singh(インド)
準決勝 ○[2−0(3-0,2-0)]Mohammad Faghiri(イラン)
2回戦  ○[2−0(5-0,7-0)]Hai Ho Quang(ベトナム)
1回戦  ○[2−0(1-0,7-0)]Askhat Kudaibergenov(カザフスタン)
  
 【3月:ハンガリー・カップ(ハンガリー)】優勝(20選手出場)
決  勝 ○[2−0(2-0,1-0)]Mariusz Los (ポーランド)
準決勝 ○[2−1(0-1,2-0,1-0)]Spencer Mango (米国)
3回戦  ○[2−0(2-0,8-0)]Anders Ronningen (ノルウェー)
2回戦  ○[2−0(2-0,5-0)]Maksim Kazharski (ベラルーシ)
1回戦   BYE
   
 【2月:ニコラ・ペトロフ国際大会(ブルガリア)】優勝(10選手出場)
決  勝 ○[2−0(1-0,2-0)]Venelin Venkov(ブルガリア)
準決勝 ○[2−0(2-0,1-0)]Mostafa Hassan(エジプト)
2回戦  ○[2−1(1-0,0-1,1-0)]峯村亮(神奈川大職)
1回戦  ○[2−1(0-3,2-7,3-0)]Alexandar Kostadinov(ブルガリア)

 《2008年》
 【5月:五輪予選第1戦(イタリア)】
20位(25選手出場)
1回戦 ●[0−2(1-5=1:45,1-2)]Vugar Ragimov(ウクライナ)

 【3月:アジア選手権(韓国)】3位(11選手出場)
3決戦  ○[2−0(2-0,3B-3)]Li Shujin(黎淑金=中国)
準決勝 ●[0−2(1-7,TF0-5=1:12)]Soryan Reihanpour Hamid(イラン)
2回戦  ○[2−0(3-0,4-0)]Rajinder Singh(インド)
1回戦   BYE

 《2007年》
 【8月:ピトラシンスキ国際大会(ポーランド)】
5位(21選手出場)
3決戦  ●[0−2(2-3,2-3)]Roman Amoyan(アルメニア) 
準決勝 ●[0−2(0-5,0-4)]Rovsan, Baizamov(アゼルバイジャン)
3回戦  ○[2−1(0-3,3-0,5-0)]Onur Sensoy(トルコ) 
2回戦  ○[2−1(1-@,4-1,8-2)]Natig Bagimov(アゼルバイジャン)
1回戦   BYE

 【2月:デーブ・シュルツ国際大会(米国)】(14選手出場)
敗復戦 ●[不戦敗]Anthony Brooker(米国)
1回戦  ●[1−2(3-8,4-3,1-1)]Spenser Mango(米国)



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