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【特集】世界選手権へかける(5)…女子67kg級・新海真美(アイシン・エィ・ダブリュ)【2010年8月12日】

(文=樋口郁夫)
 


 世界の女子レスリングをリードしている日本だが、女子67kg級に限れば、1997年から世界チャンピオンが生まれていない(2001年までは68kg級)。2008年の東京・世界選手権で、新海真美(アイシン・エィ・ダブリュ)が日本選手として初めて決勝に進出。悲願の世界一を目の前にしたが、敗れて銀メダルに終わった。

 新海は今年の世界選手権で、再び日本女子レスリング界の悲願に臨む。2008年の世界選手権は、63kg級の伊調馨選手が辞退したことに絡んでの繰り上げ出場。準備期間は短かった。今回は国内大会を連覇し、自分の力で勝ち取った日本代表。「前回より前向きな気持ちになっています」と言う。

 「けがをしないように、でも追い込んだ練習がなければ勝てないので、追い込んで練習したい」と、2年ぶりの大舞台を目前に控えた心境を話してくれた。

■この2年間で、6つの国際大会に出場!

 シニアの大会では、2008年アジア選手権(韓国)や2009年のゴールデンGP予選「オーストリア・オープン」での優勝はあるが、世界選手権のほか、2度出場したゴールデンGP決勝大会はいずれも2位。今年のワールドカップの個人順位も2位。世界を相手にしたビッグイベントでは、目に見えないバリアで阻まれているかのように「優勝」に手が届かない。

 新海は、あと一歩が乗り越えられない原因を「決勝になると、何かに押されている自分がいます。攻める気持ち、勝ちたい気持ちはあるのですが…。空回りというか、言葉にはうまく言い表せないです」と分析する。「決勝戦のプレッシャー」という言葉を否定はしなかった
(右写真=2008年世界選手権決勝で敗れた新海)

 しかし、初の世界選手権出場のあと2年近くが経ち、この間、多くの国際大会を経験してきた。1年9ヶ月の間に出場した国際大会は6大会。これは今回の女子の日本代表選手の中で最多の出場回数となる。その中には、72kg級に出場した試合もある。

 今や世界のトップレスラーの一人であるスタンカ・ズラテバ(ブルガリア)には勝てなかったものの、欧州2位、3位の選手に勝つことができ、自信を持つことができたという。ズラテバと対戦できたことも、血となり肉になったはずだ。多くの経験を積んだことで、その壁を乗り越える強さが身についたことが期待される。

■強敵に対しても、苦手意識を持たず、常に攻める気持ちで!

 現在の67kg級は、マルティン・ダグレニエ(カナダ)が世界選手権2連覇中で頂上に君臨。北京五輪63kg級銀メダリストのアレナ・カルチャショバ(ロシア)がこの階級にアップし、今月のポーランド・オープンで優勝。対抗として浮上した。

 同五輪63kg級3位のエレナ・シャリギナ(カザフスタン)も、昨年の大会は63kg級だったが、今年は67kg級に絞って各種大会に出場しているので、世界選手権もこの階級への参加が予想される。米国からは過去2度の世界一を含めて9個の世界選手権メダルを取っているクリスティ・デービス(旧姓マラノ)が出てくる。いずれも優勝争いに加わってきそうな状況だ。

 新海は今年1月のゴールデンGP予選「ヤリギン国際大会」と7月のゴールデンGP決勝大会で、ともにシャリギナに敗れている。最初が0−1、0−1、2度目が0−1、2−3と、すべてのピリオドが1点差の敗戦。「ちょっとのところでポイントが取れなかった。負けたのは執念の差だったと思います」。

 今度闘うことになったら、執念を自分が発揮したいところだ。それは、ダグレニエ、カルタショバ、デービスに対しても同じ。「苦手意識が出てしまったらダメ。弱気にならず、攻める気持ちを持ち続けることが大切です」と、対戦成績や相手の過去の実績にとらわれず、倒すことだけを考えて臨むことを強調する
(左写真=全日本合宿で伊調馨と練習する新海)

■アイシン・エィ・ダブリュの2人の無念を晴らすためにも金メダルを!

 気持ちの強化とともに、技術・戦術のマスターにも余念がない。「勝つために、考えながら練習しています。コーチからも、細かな技術を教えてもらっています。今回の合宿(8月1〜5日=新潟・十日町)で木名瀬コーチから教えてもらったタックルの切り方を知っていれば、シャリギナには負けなかった」。毎日が勉強の連続だ。

 昨年の世界選手権は、アイシン・エィ・ダブリュの3選手(新海のほか、51kg級・甲斐友梨、59kg級・山名慧)のうち、新海だけが出場できなかった。今年は逆に新海だけが出場する。「(2人は)いろいろとサポートしてくれています。期待に応えたい。来年3人そろって出場するためにも、今年は私が頑張って道をつくりたい」。2人の無念を晴らし、勇気づけるためにも、金メダルを持ち帰りたいところだ。


 新海真美(しんかい・まみ)=アイシン・エィ・ダブリュ、2年ぶり2度目の出場
 1985年6月7日、滋賀県生まれ。25歳。滋賀・日野高〜中京女大卒。03年にJOC杯ジュニアオリンピックと全国女子高校選手権で優勝したほか、世界ジュニア選手権72kg級に出場。04年全日本学生選手権優勝と力をつけ、05年はアジア・ジュニア選手権、世界ジュニア選手権、ユニバーシアードで優勝を重ねた。
 06年は全日本選手権2位へ。07年ジャパンビバレッジクイーンズカップで優勝。06〜08年にワールドカップに出場。同年の世界選手権で銀メダル獲得。その後、国内の72kg級に出場したものの、再び67kg級へ。09年全日本選手権と10年全日本選抜選手権で優勝し、世界選手権の代表へ。7月のゴールデンGP決勝大会は2位。158cm。



◎新海真美の国際大会成績

 《2010年》
 
【7月:ゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)】2位(8選手出場)
決  勝 ●[0−2(0-1,2-3)]Elena Shalygina(カザフスタン)
準決勝 ○[2−1(1-1L,1-0,1-0)]Kateryna Burmistrova(ウクライナ)
1回戦  ○[2−0(2-2,1-0)]Maja Gunvor Erlandsen(ノルウェー)

 
【3月:ワールドカップ=団体戦(中国)】
3位決定戦 ●[0−2(1-4,1-1)]Alla Cherkasova(ウクライナ)
予選3回戦 ○[2−0(2-0,2-0)]Megan Buydens(カナダ)
予選2回戦 ○[2−1(1-2,2-0TF,6-0=1:15)]Inna Trazhukova(ロシア)
予選1回戦 ●[1−2(0-1,1-0,0-1)]Qin Xiaoqing(秦暁慶=中国)

 【1月:ヤリギン国際大会(ロシア)】5位(11選手出場)
3決戦  ●[0−2(0-1,0-1)]Elena Shaligina(カザフスタン)
敗復戦 ○[2−0(1-0,TF6-0=1:31)]?(ウズベキスタン)
2回戦  ●[フォール、2P0:55(0-3=2:07,F0-4)]Odonchimeg, Badrakh(モンゴル)
1回戦   BYE

 《2009年》
 
【7月:ゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)】(72kg級)=8位(12選手出場)
2回戦 ●[フォール、2P0:57(0-1,F0-6)]Stanka Zlateva(ブルガリア)
1回戦 ○[2−0(1-0=2:25,2-1)]Ochirbat Burmaa(モンゴル)

 
【6月:オーストリア・オープン(オーストリア)】(72kg級)=優勝(10選手出場)
決  勝 ○[フォール、2P=0:50 (1-0, F2-0)]Jenny Fransson(スウェーデン) 
準決勝 ○[2−0 (1-0, @L-1)]Svetlana Sayenko(ウクライナ)
2回戦  ○[2−0 (3-0, 7-0=1:28)]Raphaela Kopetschek(ドイツ)
1回戦   BYE

 《2008年》
 
【11月:NYACホリデーオープン(米国)】優勝(3選手出場)
リーグ3回戦 ○[1−2(0-1,2-0,2-0)]Stacie Anaka(米国)
リーグ2回戦 ○[2−0(1-0,1-0)]Megan Baydens(カナダ)
リーグ1回戦  BYE

 
【10月:世界女子選手権(東京)】2位(17選手出場)
決  勝 ●[0−2(0-4,1-4)] Dugrenier Martine(カナダ)
準決勝 ○[2−0(1L-1,4-1)] Nasanburmaa 0(モンゴル)
3回戦  ○[2−0(1-0,5-0)] Borinovskai Ulia(ロシア)
2回戦  ○[フォール、1P1:35(4-0)]Maierhofer Stephanie(オーストラリア)
1回戦   BYE

 
【3月:アジア選手権(韓国)】優勝(6選手出場)
決  勝 ○[フォール、1P1:52(6-0)]Nasanburmaa Ochirbat(モンゴル)
準決勝 ○[2−0(2-1,4-0)]Zhang Fengliu(中国)
1回戦  ○[2−0(1-0,3-0)]Kundu Suman(インド)

 
【1月:ワールドカップ=団体戦(中国)】
決    勝  ○[2−0(3-0,4-0)]Olga Kalinina(カザフスタン)
予選3回戦 ●[0−2(0-2,0-1)]Katie Downing(米国)
予選1回戦 ○[2−0(AL-2,1-0)]Kateryna Burmistrova(ウクライナ)

 《2007年》
 
【5月:アジア選手権(キルギス)】3位(7選手出場)
3決戦  ○[2−0(2-0,TF7-0=1:27)] Han Tae Yang(韓国)
準決勝 ●[1−2(1-@,2-0,3-B)] Daria Karpenko(カザフスタン)
1回戦  ○[2−0(1-0,@-1)] Gitika Takhar(インド)

 
【3月:ワールドカップ=団体戦(ロシア)】(72kg級)
決    勝 ●[0−2(0-6,0-4)]Wang Xu(王旭=中国)
予選2回戦 ●[1−2(0-5,2-0,0-1)]Anita Schaetzle(ドイツ)
予選1回戦 ○[2−1(0-1,1-0,1-1)]Vasilisa Marzaliuk(ベラルーシ)



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