▲一覧ページへ戻る

 

【特集】世界選手権へかける(4)…女子51kg級・堀内優(日大)【2010年8月10日】

(文=樋口郁夫)
 


 右肩の脱きゅうぐせを完治させるため手術に踏み切り、1年近く第一線を離れた女子51kg級の堀内優(日大=左写真)。今春から驚異的な復活劇を展開し、初出場となる世界選手権で優勝も考えられる躍進を見せている。

 先月の世界ジュニア選手権(ハンガリー)は、復帰後初の国際大会であり、昨年3月のワールドカップ(W杯=中国)以来の外国選手との対戦だった。2012年ロンドン五輪出場見据えて55kg級への出場だったが、ブランクをものともせず、シニアの世界ででも実績のある選手を含めて5戦全勝で優勝した。

 「(久しぶりの国際大会の)緊張はありました。しかし、コーチに気持ちを盛り上げてもらい、今までの中で最高にリラックスして試合に臨むめました」。ブランクの影響をまったく感じさせない心理状況を持つことができ、非凡な才能を見せつけての優勝だった。

■51kg級の頂点にいるソフィア・マットソン(スウェーデン)は国際大会を5大会連続優勝中

 もちろん、安心はできない。唯一“苦戦”した3回戦のヘレン・マロウリス(米国)は、シニアでの国際大会デビューとなった昨年のW杯で負けた相手。「思い出してしまい、なかなか攻められなかったんです」とのことで、第3ピリオドは0−0でクリンチ勝負へ。「私の攻撃になったので勝てたようなものです」と内容は五分だった(1-0,0-3.3-0で勝利)。世界での闘いは、一筋縄ではいかない。

 それでも、負けたことのある相手にリベンジできた事実は、自信につながることは間違いない。復帰後初の国際大会にして、ひとつの壁を超えたと言っていい。「世界選手権に出るからには、絶対に優勝したい」と、目標は初出場初優勝だ。

 51kg級の昨年の世界チャンピオンは、2006・07年にジュニア48kg級で世界一となり、18歳で北京五輪に出場したソフィア・マットソン(スウェーデン)。五輪後に51kg級にアップし、昨年、19歳で世界一に輝いた
(右写真)。今年に入って欧州選手権(4月)、オーストリア・オープン(6月)、ゴールデンGP決勝大会(7月)、ポーランド・オープン(8月)と優勝を続けている伸び盛りの選手だ。

 かつての女子は、10代の世界チャンピオンはそう珍しいことではなかったが、世界的にレベルの上がった現在は難しくなっている。21世紀に入ってからは、2002年の伊調馨(63kg級、18歳)、2006年の景端雪(ジン・ルイシュ=中国・67kg級、18歳)、マットソンの3人だけ。マットソンは“天才レスラー”の部類に入る選手と言っても過言ではないだろう。

 だが、堀内も“天才性”という点では負けていない。アジア・カデット選手権を3度制し、世界ジュニア選手権は2階級にわたって2度優勝。今回は19歳での世界チャンピオンをぐっと近づけている。

 栄和人・強化委員長(至学館大教)は、マットソンを「タックルの中でも、頭を中に入れる片足タックルが強烈。リーチが長いので、脚をさわらせたら、しつこく攻めてくる」と分析。堀内がタックルでマットソンの深いふところに攻め入れるかどうかが勝負のポイントと見ている。

■中国のベテラン、李絵がどんな強さを見せるか

 この2人の“天才”、ちょっとした因縁がある。堀内が初の国際大会となる2006年のクリッパン国際大会(スウェーデン)カデット46kg級に出場した時、決勝で敗れて2位となっているが、その相手がマットソンの妹のリサ・マットソンだった。リサはすでに55kg級で闘っている。同級へのアップを視野に入れる堀内は、いずれリベンジの機会があるだろうが、今回は代わって姉にリベンジしたいところ。それは世界チャンピオンへの道を意味するのは言うまでもない。

 マットソンの他には、2004年アテネ五輪48kg級代表で、復帰してきた中国の李絵(リ・フイ)が要注意選手。今年3月のW杯は甲斐が0−2(0-5,4-5)でやられ、5月のアジア選手権(インド)でも優勝している。

 堀内は「目茶苦茶強いと聞いています。(W杯で甲斐)友梨さんが持ち上げられて、マットにたたきつけられたとか」と警戒する。実際には、そんなシーンはなく(FILA・WebTV参照)、接近しての片足タックルとガッツレンチの連続技でポイントを重ねたものだが、自分の型に持ち込んだ時の強さは強烈だった。栄強化委員長は「気の抜けない相手であることは間違いない」と警戒する。

 その2人以外にずば抜けた選手はおらず、マークする相手を絞れる状況だ。世界選手権へ向けての重点課題は、「タックルに入った後のポイントへのつなげ方と、入られた時のもろさの克服」。前進のための後退を経て、世界へ飛躍する堀内が初出場初優勝の快挙を達成することができるか
(左写真=藤川健治コーチの指導で技術習得に励む堀内)


 堀内優(ほりうち・ゆう)=日大、初出場
 1990年12月23日、京都府生まれ、19歳。京都・網野教室出身。京都・網野高卒。全国少年少女選手権に5度優勝。2004・05年に全国中学生選手権2連覇。04年からJOC杯のカデット、ジュニアにわたって5年連続優勝を達成し、この間、05〜07年にアジア・カデット選手権で3年連続で優勝し、008年は世界ジュニア選手権で優勝した。
 08年全日本選手権で初優勝し、09年の全日本女子選手権にも勝って世界選手権の日本代表権を獲得したが、右肩の手術に踏み切ったため辞退した。半年以上のリハビリのあと、2010年にJOC杯ジュニアオリンピック55kg級と全日本選抜選手権51kg級に優勝。ジュニア、シニアの世界選手権出場を決め、世界ジュニア選手権で2度目の優勝。155cm。



 ◎堀内優の最近の国際大会成績

 《2010年》

 
【7月:世界ジュニア選手権(ハンガリー)】優勝(25選手出場)
決 勝  ○[フォール、1P(F3-0)]Yuliya Blahinya(ウクライナ)
準決勝 ○[フォール、1P(F3-0)]Karima Sanchez Ramis(スペイン)
3回戦  ○[2−1(1-0,0-3,3-0)]Helen Maroulis(米国)
2回戦  ○[2−0(2-0,TF6-0)]Rim Ayari(チュニジア)
1回戦  ○[2−0(4-0,4-0)]Hafize Sahin(トルコ)

 《2009年》
 
【3月:ワールドカップ=団体戦(中国)】
3位決定戦 ○[2−0(2-0,1-0=2:11)]Oleksandra Kohut(ウクライナ)
予選3回戦 ●[1−2(3-0,0-1=2:02,0-1)]Helen Maroulis(米国)
予選2回戦 ○[2−0(4-0,2-0)]Shushko Nadzeva(ベラルーシ)
予選1回戦 ○[2−1(5-0,1-3,3-0=2:05)]Dai Shiju(代世菊=中国)

 《2008年》
 
【8月:世界ジュニア選手権(トルコ)】優勝(24選手出場)
決  勝 ○[2−0(1-1,1-0)]Ekatarina Krasnova(ロシア)
準決勝 ○[2−0(6-0,4-0)]Genevieve Haley(カナダ)
3回戦  ○[2−1(0-3,3-0,1-0)]Roksana Zasina(ポーランド)
2回戦  ○[2−1(2-3,1-0,1-0)]Helen Maroulis(米国)
1回戦  ○[フォール、1P(2-0)]Aurelie Basset(フランス)

 《2007年》
 
【8月:アジア・カデット選手権(台湾)】優勝(4選手出場)
リーグ戦 ○[フォール、1P]Dinara Bayanbayeva(カザフスタン)
リーグ戦 ○[フォール、1P]Bayarmagnai Davaasuren(モンゴル)
リーグ戦 ○[フォール、1P]Su Yu-Jou(台湾)



  ▲一覧ページへ戻る