▲一覧ページへ戻る


【特集】今年の最多出場、四日市ジュニアが選手に託すメッセージとは?【2010年7月27日】

(文・撮影=増渕由気子)
 


 今年の全国少年少女選手権(7月24〜25日、広島市)で、最も多くの選手が出場したチームが三重・四日市ジュニアクラブだ。登録者は50人を超え、今回は39人がエントリーした。1988年に連盟に正式登録。日体大時代に1年生でグレコローマンの学生王者に輝いた宇野勝彦監督を中心に運営し、強さと20年以上の伝統を兼ね備えるチームだ。今大会は15人が2日目の準決勝に進出。うち5人が優勝した。

 現在、指導の中心は神戸昭仁コーチと高木努コーチが行っている。神戸コーチが全国大会を率いるのは今回で7回目。三重・四日市四郷高レスリング部の1期生だった。四日市クラブで教え始めたのは35歳の時。ちなみに、高木コーチは同高校の10期生だ。すでに大きくなっていたクラブをさらに活性化させようと、いろいろ運営に工夫もした。

 四日市ジュニアがこれだけの大所帯を保っているのには秘密がある。神戸コーチは、「子供たちは、たいていマット運動が苦手なんですよね。なので、“マット運動がうまくなるレスリング教室”というキャッチフレーズで勧誘しているんです」。四日市の広報課をはじめ、最近では小学校にポスターを貼って入会をうながしている。格闘技というイメージを出さず、マット運動をメーンの入り口としたことで、人気を博した。

■「あまりハードワークはやらせたくない」…神戸昭仁コーチ

 “マット運動講座の受講料”は、月8回、保険込みで数千円程度。自然と口コミでもひろがり、常に50人程度の会員を保っている。「特許をとりたいくらいの制度ですよ」とコーチ陣は胸を張る。

 大所帯で強豪チーム名となれば、強くなることを第一にとらえているように思われがちだが、神戸コーチはきっぱりという。「チャンピオンだけを目指しているチームではありません。王者はその学年でたった一人しかなれない。2位以下は全員どこかで負けるんです。頑張っても思い通りにいかない…。大人になれば、そういうことありますよね。レスリングを通しての人間教育を目指しています」。これが四日市ジュニアの指導方針だ。

 練習拠点は3箇所あり、毎日どこかで教室は開催されている。50人もいるため、練習環境は抜群だ。「いろんな選手、いろんな階級の選手と練習できる」ことが最大の魅力。その中から、自分のペースに合わせて通えるシステムだ。神戸コーチは「熱心な生徒は毎日来ています。でも、あまりハードワークをやらせたくはないので」と、練習のしすぎに警鐘を鳴らす。

■「レスリングしかやっていないと、子供は外の世界を見たくなる」

 「四日市ジュニアは、小学生は強いけど、中学生が弱いと言われてしまうことがあるんです」。事実、全国中学生選手権大会の優勝者は近年出ていない。その理由を神戸コーチはこう分析する。「中学にレスリング部がないのもひとつの要因ですが、小学生で燃え尽きて、辞めてしまう子が多い」。

 この事例があるため、練習は原則、週4日をめどとするように指導しているそうだ。「日々考えています。どうやったらレスリングを好きでいてくれるかなと。僕の娘も中学でレスリングを続けなかった。レスリングしかやっていないと、子供は外の世界を見たくなるんです。勝利主義のチームではありませんし、小学校のときはレスリング以外のことも、いろいろ取り組んでほしいです」。

 全国少年少女連盟に加盟している三重県のキッズクラブは、現在7クラブ。その中には、五輪V2吉田沙保里(現ALSOK綜合警備保障)を輩出した一志ジュニア教室や、ここ1、2年で1年生インターハイ王者や全国中学生選手権V2王者など強豪を次々と輩出しているいなべクラブなどもある。

 同じ三重県だけに、刺激を受けた四日市ジュニアの指導者たちも、選手には中学、高校、大学とレスリングを続ける選手を望んで得やまない。「長くレスリングを好きで、そして楽しくやってほしい」と神戸コーチ。このメッセージをこれからも子供たちに伝えていく。

《参考記事》
★2007年8月13日: 【特集】最多の42選手参加で、団体戦3位入賞…四日市ジュニア



  ▲一覧ページへ戻る