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【特集】山口県のチャレンジ「ジュニアアスリートアカデミー」が全国大会に初参加【2010年7月27日】

(文・撮影=樋口郁夫)



 7月24〜25日に広島市で行われた全国少年少女選手権に、YAMAGUCHIジュニアアスリートアカデミー「ファイブスター」(佐竹博代表=右写真)が初参加した。同アカデミーは、端的に表現するなら日本オリンピック委員会(JOC)が味の素トレーニングセンターで行っているジュニアアスリート養成アカデミーの山口県版。レスリングとセーリングに特化してジュニア選手を育成する全国で初めての事業だ。

 国立スポーツ科学センター(JISS)や日本レスリング協会も全面的に協力。レスリングは徳山大学(周南市)のレスリング場で行われており、指導は全日本選手権の常連で、全日本マスターズ選手権にも出場し始めた柴田寛さん(山口県体協)がやっている。今大会は10選手が出場し、以前からレスリングを経験していた1選手が勝っただけで、あとは全員が初戦敗退。厳しい船出となった。

 しかし、事業がスタートしたのが昨年9月で、今年4月に二期生が加わった状況。新たにレスリングを始めた選手のキャリアは、長い選手でも1年に満たず、短い選手は3ヶ月ちょっと。文部科学省の体力テストでAランクでなければ合格できないという体力の持ち主が集まっているアカデミーとはいえ、これで勝ち抜けるほど、今の全国大会のレベルは低くない。

 柴田コーチは「今回は全国のレベルを肌で感じてもらい、今後に生かせてもらうことを目的に来ました」と話し、結果には落胆していない。「みんな身体能力は高い。勝てなかったのは、レスリングの経験が足りないだけですから」と言う。

■基本は体力づくりで、レスリングの練習は週1回

 JOCアカデミーと違い、選手は毎日レスリングの練習をやっているわけではない。レスリングの練習は週1回、土曜日にやるだけで、月・水・金曜日は身体能力を高めるためのプログラムが実施されている。すなわち、目先の勝利にこだわらず、総合的な基礎体力を強化しつつレスリングの練習を行っているのが特徴だ。

 これまでのキッズ教室にはなかった試みではないか。週5日も6日もレスリングの練習させれば、確かに全国大会で勝てる選手に育つ可能性は高いだろう。だが、激しいスポーツだけに、ハードトレーニングの結果、高校生くらいになると身体がボロボロになって続かなくなる場合も出てくる(左写真=セコンドから選手の試合を見つめる柴田コーチ)

 キッズ時代にすごい成績を残しても、けがによって大成せずにマットを去った選手は、これまでに何人もいた。燃え尽き症候群という問題もある。若い時からレスリングだけをやることが、本当に強い選手に育つ道なのかどうかは、いまだに答が出ていないのが現状だ。

 柴田コーチは「保護者の中には、今回の大会のレベルを見て、週1回の練習では勝つのは厳しいと感じた方もいるみたいです」と言う。しかし、JOCとJISSからの「小学生の時期は、週1回の専門プログラムが適当」という指導もあり、「まず基礎体力づくり」の方針を変えるつもりはないという。

■日本協会直結だけに、オリンピックや世界を意識させる環境は十分

 ただ、レスリングに専念させていない分、他のスポーツに流れてしまう可能性もある。「サッカーを掛け持ちでやっている子もいます。ワールドカップでサッカーが盛り上がりましたので、サッカーに気持ちがいってしまってますね」と苦渋の表情を浮かべる。

 一方で、初めてレスリングに接し、やればやるほど「もっとやりたい」という気持ちになってくれた子もいる。「JOCアカデミーに進みたい、という子もいるんですよ」。そんな子がいるので、「やりがいがあります」ときっぱり。

 日本協会直結だけに、1988年ソウル五輪金メダリストの佐藤満・強化委員長(専大教)らの全日本コーチや、山口県の勝村靖夫会長の教え子でもある世界V6の坂本日登美選手(自衛隊)らから年数回、指導のために来てもらえる体勢ができている。オリンピックを身近に意識させ、選手の気持ちを高めていきたいという。

 柴田コーチは35歳にして昨年12月の全日本選手権(男子フリースタイル84kg級)に出場。今年は1月の全日本マスターズ選手権に初出場初優勝し
(右写真)、今月30日からスイスで行われる世界ベテランズ選手権に挑戦するなど、現役バリバリの選手でもある。「体力的に厳しい部分はありますけど、(レスリングの)感覚を大事にしたいので」と、体が動く限り選手活動も続け、指導に役立てていく腹積もりだ。

 今年は結果が出なかった山口県のチャレンジ。「〜チャレンジの数だけ夢がある〜」をキャッチフレーズに、長期的視野に立ったプロジェクトの今後が注目される。

《参考記事》
★2009年10月5日: 山口県タレント発掘・育成事業 【YAMAGUCHIジュニアアスリートアカデミー】二期生募集のお知らせ
★2009年3月8日: 山口県、タレント発掘:2次選考会、3次選考会(最終選考)終える【YAMAGUCHIジュニアアスリートアカデミー】
★2009年1月16日: 将来のトップアスリート育成のための『タレント発掘・育成事業』



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