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男子フリー55kg級の欧州王者は国籍規定違反のため、世界選手権の出場資格なし【2010年6月6日】


 ロシア・レスリング協会が明らかにしたところによると、国際レスリング連盟(FILA)は、4月の欧州選手権の男子フリースタイル55kg級で優勝したマフマゴ・マゴメドフ(アゼルバイジャン)が国籍規定に違反していることを認め、来年3月までアゼルバイジャンの選手としては出場できないことをアゼルバイジャンに通達したという。今年9月の世界選手権(ロシア)にも出場できない。

 同選手は2006年までロシアの選手として闘っており、同年7月の欧州ジュニア選手権はロシア選手として出場している。その後、メジャー国際大会の出場はないが、ロシア協会は、同選手が2009年1月のゴールデンGP予選「ヤリギン国際大会」ではロシアの選手として出場して3位に入賞し、同年のワールドカップにも、出場こそしていないがロシア選手としてエントリーしていたことを指摘。FILAに対して国籍移籍に関する規定に違反しているとアピールしていた。

 FILAはミハイル・デュソン事務局長名でアゼルバイジャンに書簡を送り、「欧州選手権では、2006年7月から(ロシア選手として)メジャー国際大会に出場していないことと、アゼルバイジャンのパスポートを持っていたため出場を認めたが、詳細に調べたところ、欧州選手権ではアゼルバイジャン国籍では出場できないことが判明した」としている。

 この違反によって、1年間の出場停止処分が下され、2011年3月28日まで大会に出場できないとしている(注・欧州選手権の男子フリースタイルは4月13〜14日に行われており、「3月28日」という期日の意味は不明)。また、今回の欧州選手権の成績がはく奪されるのかどうかは、明らかにされていない。

《参考記事》
 ★4月22日: 欧州選手権でアゼルバイジャンが国籍規定違反…FILAは見て見ぬふり?




 【解説】国籍を変更した場合の出場規定について、FILAは「新しい国籍を取得した場合、以前の国の選手として出場した最後の国際大会から2年間経過しなければ、新しい国の選手として出場できない」と規定している。

 この規定にのっとれば、今年の欧州選手権でアゼルバイジャンの選手として出場した女子48kg級のマルジゲット・バゴメドバ、女子51kg級のアンゲラ・ドロガン、55kg級のカテリナ・ドムブロフスカは、以前はそれぞれロシア、モルドバ、ウクライナの選手として国際大会に出場しており、最後の国際大会から2年間は経過していない。

 アジア選手権でも、女子72kg級で優勝したグゼル・マニュロバ(カザフスタン=
右写真)が昨年7月のゴールデンGP決勝大会や、浜口京子選手が出場した8月のポーランド・オープンまでロシア選手として出場しており、2年間は経っていない。いずれも新しい国では出場できないことになる。

 しかし、移籍した場合の規定は他にもあり、これが難解複雑。本ホームページの英文ページを執筆しているビル・メイ氏も「意味がよく分からない」というほど、訳の分からない規定が並んでいる。

 規定のひとつに、「インターナショナル・レベルの選手が国籍を変更した場合、FILAカレンダーに掲載されている国際大会の最後の大会に出場してから2年間経過しなければ、新しい国の選手として出場することはできない。2年間という期間を短縮することはできない。ナショナル・レベルの選手の場合は、新しい国籍を取得して、新旧の両国が同意しFILAの承認を得れば、すぐに新しい国の選手として出場できる。同意がない場合は、2年間を経過しなければ新しい国の選手としては出場できない」という文章がある。

 何をもって、インターナショナル・レベル、ナショナル・レベルというのか。アジア選手権で優勝したマニュロバは、2004年アテネ五輪で銀メダルを獲得した選手であり、昨年の欧州選手権でも2位に入っている選手。当然「インターナショナル・レベルの選手」のはず。ロシアとして出場してから9ヶ月も経たないうちにカザフスタン選手として出場することは、明らかに規定違反と思われるが、それを認めるような細則があるのか…。

 難解な規定によってグレーゾーンとなり、うやむやのうちに国籍移動が野放し状態にならないことを祈るばかりだ。

 なお、国際オリンピック委員会(IOC)は、国籍を変更した場合の規定として、「前の国の代表として参加した最後の大会から少なくとも3年以上経っていることを条件とする」と明記している一方、「この期間については、IOC理事会が、個々の場合の事情を考慮して、NOC(国内オリンピック委員会)と関係IF(国際競技連盟=レスリングならFILA)の同意を得て、短縮または解消することができる」となっており、両国の同意があれば、すぐに新しい国の選手として出場できる規定となっている。(文=樋口郁夫)



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