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【特集】須藤元気流「楽しむレスリング」で連覇を目指す拓大…東日本学生リーグ戦展望(4)完【2010年5月17日】

(文=樋口郁夫)
 
  《一部リーグ組み分け》
 【A組】
拓大、日体大、国士舘大、東洋大、専大、神奈川大、青山学院大、法大
 【B組】早大、山梨学院大、日大、中大、大東大、明大、群馬大、東農大

 1994年に西口茂樹現部長がコーチに就任して以来、学生の大会では常に優勝候補に挙げられる拓大。2002年に東日本学生リーグ戦で初優勝を遂げ、今年のリーグ戦では初の連覇を狙う(右写真=昨年のリーグ戦で優勝し、宙に舞った須藤元気監督)

 同時に、昨年、全日本学生王座決定戦を落として取り逃がした年間の団体戦4大会(東日本学生リーグ戦、全日本学生王座決定戦、全日本大学選手権、全日本大学グレコローマン選手権)制覇の第一歩を踏み出す。

■層の厚い中量級だが、重量級のダイナマイト・パワーも売り!

 メンバーはそろっている。60kg級・内村勇太、66kg級・岡本佑士(主将)、74kg級・高谷惣亮、84kg級・岡太一と昨年のレギュラー陣が残っている。内村、岡本、高谷は昨年のリーグ戦では全勝。岡本主将は本来グレコローマンの選手だが、全日本大学選手権でも2位に入るなどフリースタイルでも地力を発揮している。

 同主将は「(昨年の)全日本学生王座決定戦の決勝は、自分が負けたことでチームが3−4で負けた。あの悔しさは忘れない。今年こそ団体四冠を取りたい」と燃えてきた。個人的にも、今月初めの全日本選抜選手権では無念の初戦敗退。「そのうっぷんを晴らしたい。気持ちを切り替えて、リーグ戦優勝に燃えています」と言う。

 充実した中量4階級で最低3勝は固いところ。55kg級には全日本大学選手権3位の中野裕仁がいるので、84kg級までに4勝は不可能なことではない。60kg級にはJOC杯ジュニアオリンピックを制した成長株の鈴木康寛がいて、内村の負担を軽減してくれることが予想される。決勝戦には十分にエネルギーを温存して臨むことができそうだ。

 万が一にも84kg級までで3勝に終わっても、重量級にも強力な布陣がそろう。96kg級には2008年インターハイ王者から拓大に進み、今年4月のJOC杯ジュニアオリンピックで3位に入賞した山本竜司が今年はポイントゲッターとしての活躍が期待される。120kg級の谷田昇大も、卒業によって強豪が抜けたこの階級では全勝が期待されよう。

 昨秋の東日本学生新人戦グレコローマン96kg級で2位に入った土田崇英、インターハイ王者の新人、村木孝太郎(滋賀・栗東高卒)を含め、西口茂樹部長は「今年のウチは重量級で勝負します」とまで言う
(左写真=重量級を支える選手。左から村木、山本、土田、谷田)

■日体大不出場の利が、逆に働く恐れもあるが…

 同組(A組)の日体大が、出場停止処分が解けずに出場してこないことは、拓大の大きな追い風となるだろう。早大、日大、山梨学院大、中大などがそろうB組からどこが勝ち上がってこようとも、満身創痍(そうい)の状況で決勝に臨まねばなるまい。拓大は最終日、日体大との試合を不戦勝で勝ち、B組の最終試合を高見の見物。十分に研究したうえで決勝に臨める有利さがある。連覇達成への条件はそろいすぎている。

■拓大の予想されるメンバー
(数字は学年、右端は出身高)
55kg級 中野裕仁 愛媛・今治工
60kg級 内村勇太 佐賀・鹿島実
66kg級 岡本佑士 静岡・飛龍
74kg級 高谷惣亮 京都・網野
84kg級 岡 太一 鳥取・鳥取中央育英
96kg級 山本竜司 静岡・飛龍
120kg級 谷田昇大 奈良・大和広陵

 しかし西口部長は「やってみないと分からないのが勝負の世界です」と気を引き締める。去年より強いチームであることは自負しながら、「学生全体のレベルが上がっています。他も、去年より強いチームばかりです」と言う。

 日体大が不出場という利も、逆に働く可能性もあるとみている。「日体大に勝ってブロック優勝し、その勢いに乗って決勝戦に臨む方がよかった」と言う。団体戦は流れ、ムードといったものが大きなウエートを占めるので、この警戒は当然だろう。

 特に62年ぶりの優勝を目指す早大選手の意気込みは、西口部長にもひしひしと伝わっている。予選ブロックを圧勝で勝ち上がっても、決勝で敗れれば2位。予選ブロックの内容で優勝が決まるわけではない。楽勝ムードを持って大会に臨むようなことがあれば、最後に大きな落とし穴が待っているかもしれない。

■連覇と年間4大大会制覇へ向けてのプレッシャーとの闘いは?

 もうひとつ、敵となりそうなものが、連覇を目指すプレッシャーだ。どんな強豪選手・チームであっても、プレシャーに襲われて、それに縛られてしまっては実力を出し切ることができない。周囲にははかり知れない重圧によって、地力はナンバーワンであっても勝てなかった選手・チームなどいくらでもいる。

 このプレッシャーをどう取り除いてやるかが、指導者の手腕だ。猛練習によって「これだけやったんだ」と思わせて重圧を取り除く方法もある。拓大は2002年に初優勝した時、6回戦で大東大に不覚の黒星を喫した。その夜は帰寮後に練習が待っていた。翌日の7回戦に勝って決勝進出を決め、その勢いで決勝にも勝つことができた。

 逆の場合もある。拓大出身の不世出の柔道家、木村政彦氏は同大学の師範時代、大勝負の前日に選手を集め、「優勝祝いだ」と言って酒を飲ませたことがある。不思議そうな顔の選手を前に、「おまえ達以上に強い選手はいない。優勝は間違いない。前祝いだ」と言って宴会を実行した。極端かもしれないが、プレッシャーという目に見えない敵を振り払うひとつの方法であることは間違いない。

 拓大のレスリング部でも、これにならって同じことをしたことがあるという。大勝負になればなるほど、いかにリラックスさせるかが大きな容積を占める。

■就任2年目の須藤元気監督の体が再び宙を舞うか?

 昨年、就任1年目でリーグ優勝を遂げた須藤元気監督の今大会のスローガンは「楽しんで連覇を達成しよう」だ
(左写真=リーグ戦連覇を目指す拓大の練習)。実は昨年のリーグ戦時、初日の試合が不本意な内容だったため、試合後、グラウンドで夜げいこをしたという。こうした猛練習が実ってのリーグ戦優勝だったが、団体戦4冠は達成できなかった。「ならば、リラックスしてレスリングをやろうよ」が今年の方針。「大学レスリングの一番の面白さは、リーグ戦です。気持ちよくやりたいです」と、最大限のリラックスを求めていく予定だ。

 かつて、「オリンピックを楽しみたい」と発言して批判を浴びた五輪代表(他競技)もいたが、元巨人軍の長島茂雄氏は「プレッシャーを楽しめるようになれれば、一流ですよ」と口にしている。これほど勝負の世界の極意を表している言葉はない。結果が出ないから批判されるのであり、結果を出せば、それが正しくなる。

 須藤流の「楽しんでやろう」のレスリングで、5月21日、昨年に続いて須藤監督の体が宙を舞うか。


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