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【特集】“松本慎吾の後継者”斎川哲克(両毛ヤクルト販売)がついに海外で表彰台へ【2010年5月16日】


 【ニューデリー(インド)、増渕由気子】 アジア選手権の男子グレコローマン84s級は、斎川哲克(両毛ヤクルト販売)が3試合を勝ち抜いて決勝進出。決勝戦では、昨年のアジア・ジュニア王者のリー・セーヨル(韓国)に1−2で敗れたが、シニアに上がってからの海外遠征で初めて表彰台に上がった。

   同階級は、2004年アテネ・2008年北京両五輪代表の松本慎吾が一時代を築いた階級。松本は若手の頃からコンスタントに海外で成績を残し、アジア王者にまでなった。その後継者として、斎川は日体大時代から注目を集めていた。

 だが、松本が引退後、初の日本代表をつけて臨んだ昨年のアジア選手権で、新興国の台湾に初戦敗退。2008年のアジア選手権で松本が優勝しているだけに、対照的な結果となってしまった。

  あの台湾に何もできずに負けてしまった―。“ポスト松本”として注目されていた分、その代償は大きかった。「去年からずっと引きずっていた。日本では勝てるけど、海外では勝てないって思われているんだろうな」と斎川。アジア選手権後に行われた全日本選抜選手権では、学生に辛勝。秋の世界選手権、この冬のハンガリーカップも初戦で敗退してしまった。大会前は、「一年経っても、去年と同じ結果だったらどうしよう」と不安があったという。

   “ポスト松本”という重たい冠を被せられ、国内外で苦しんだ斎川の1年間は無駄ではなかった。「1ピリオドを落としても焦らなくなった。よく取られるから」。リードされると、自分を見失って修正できずにストレートで敗れることが斎川の負けパターンだったが、スタートに弱い自分を受け入れ、そこからどう立て直すかに焦点を置けるようになった。

 冬のハンガリー遠征の合宿では、現役世界王者や北京五輪のメダリスト、さらに今大会の準決勝で対戦したカザフスタンの選手などと手合わせをする機会があった。「全員にボコボコにされて、レベルの高さを思い知らされましたが、一つだけ分かったことがありました。慎吾先輩とスパーリングしている時一番きついと気づいたんです」。松本は、今でも現役さながらでスパーリングにつきあってくれる。今の環境で十分に世界で通用する練習が積めると確信したそうだ。

   185センチと長身で恵まれた体格の割には、体重が増えないことが以前の悩みだった。専属トレーナーの槇野陽介氏とともに、以前から取り組んできたウエイトトレーニングの努力が実って、現在は減量が必要なほど体重も増えてきた。今大会は初戦から大型の選手が多い旧ソ連の選手と3試合連続で闘ったが、斎川のボディは、マットでひときわ目立っていた。

  決勝では負けたものの、強豪国である旧ソ連の選手を3選手も撃破したことは、海外の壁をようやく打破しと言えるだろう。「次ニ対戦したら絶対に勝てるとは思っていない。でも、チャンスはあるんだなと。スタンドでは、けっこうやれるんだなと分かった」。ようやく海外でも勝ち上ることを覚えた斎川。9月の世界選手権もこの勢いに乗れるだろうか―。


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