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【特集】早大・太田拓弥コーチ、就任10年目の節目を飾れるか?…東日本学生リーグ戦展望(1)【2010年5月12日】

(文=増渕由気子)
 

 世界選手権の日本代表争いが終わり、12日からインドで始まるアジア選手権を経て、レスリング界の注目は、ひととき学生レスリングへと移っていく。東日本学生界最大のイベント、東日本学生リーグ戦が5月18日から4日間、東京・駒沢体育館で開催される。

 昨年優勝の拓大の連覇なるか。早大が昨年決勝で敗れた雪辱を果たすか。日本代表選手への注目を吹き飛ばすほどの熱戦が期待される。

 まず日本で最も歴史のあるチーム、62年ぶりのリーグ優勝を目指す早大を追った。(大会スケジュール


  《一部リーグ組み分け》
 【A組】拓大、日体大、国士舘大、東洋大、専大、神奈川大、青山学院大、法大
 【B組】
早大、山梨学院大、日大、中大、大東大、明大、群馬大、東農大

■120kg級以外の階級に3人ずつの強豪がいる!

 今年こそ悲願の優勝―! 1996年アトランタ五輪男子フリースタイル74s級銅メダルの太田拓弥コーチが就任して、今年で10年目を迎える早大。2005年に予選ブロックで日体大を破って決勝に進出して以来、毎年、優勝候補の一角に名を連ねるようになった。昨年も太田体制になってリーグ戦2度目となる打倒日体大を果たし、決勝の舞台へ進んだ。だが、2005年と同様、拓大に敗れて準優勝だった。

 「2005年の時は、正直、あの日体大に勝てたことで満足していました。でも、昨年は本当に勝負の厳しさを知りました」と太田コーチ。だからこそ、今年へかける思いは強い
(右写真=早大を支える中量級選手。左から柏木健太、松本桂、石田智嗣)

 この5年間、毎年のように優勝候補だったが、今年の早大は今までとは違う。「120s級以外の階級は、全員3選手ずつ在籍しています」。フルエントリーできる戦力があるチームは、そう多くない。6階級で3選手ずつ在籍しているのは、かなりの強みだ。3選手がそろって学生タイトル絡みの成績を収めている階級もあるのだから、早大の戦力は「過去最高」と言っていいだろう。

 今年、推薦で入学してきた選手は全員が“スーパールーキー”といっていい。2008年に高校2年生で高校五冠王者(全国高校選抜大会、JOC杯カデット、インターハイ、全国高校生グレコローマン選手権、国体)に輝いた74s級・北村公平、昨年66s級インターハイ王者の花山和寛などそうそうたるメンバー。即戦力としても十分に使える選手がそろった。

■スーパールーキーがそろったが、出る階級がない!

 それであっても、現在の早大は新人がすぐ出場できるポストがない。昨年のメンバーが十分に残っているからだ。太田コーチも「1年生に頼るようなチームではいけない」と、きっぱり話す。

 もっとも、新人の存在が早大のレベルを上げているのも事実だ。今年の早大を引っ張るのは、昨年のリーグ戦で前年全日本王者の前田翔吾(日体大)に勝っている松本桂主将だ。「ぼくたち4年生は無冠の選手がほとんどです」と“雑草学年”を強調するが、タイトルぞろいの1年生に刺激され、さらに気持ちの入った練習が積めている。

 松本は今年の冬にひざの手術を敢行した。リーグ戦に一点集中するため、今月初めの全日本選抜選手権は欠場。「(一個人としては)大会に出たかったけれど、学生リーグ戦は今年が最後なので、今、何が一番大切か考えた」というほど、リーグ戦にかける思いは強い
(左写真=昨年のリーグ戦、全日本王者を破った松本を抱きしめる太田コーチ)

 松本主将の60s級は、3年生に全日本選抜選手権で小田裕之(国士舘大=プレーオフに勝って世界選手権代表へ)を破った石田智嗣。2年生にJOC杯ジュニアオリンピック2位になった柏木健太がいる。早大で最も層が厚い階級だ。66s級の田中幸太郎は階級アップも順調で、4月末のJOC杯ジュニアオリンピックで昨年の60kg級優勝に続く2連覇を達成している。

■日本最古のチームだが、新たな歴史が出来始めている!

 重量級は、オーダーの組み方で七変化する。3年生には、重量級の柱で84s級大学王者の山口剛がいる。同級の殿村幸城もJOC杯ジュニアオリンピックで優勝。勢いそのままに、大学2年で全日本選抜選手権の表彰台(3位)に上がった。この2人は120s級まで対応可能。4年の武富隆も大きい相手を得意としている。太田コーチがどのような起用をするかにも注目だ。

■早大の予想されるメンバー
(数字は学年、右端は出身高校)
55kg級 西 洸太 京都・網野
60kg級 松本 桂 長崎・島原工
66kg級 田中幸太郎 京都・京都八幡
74kg級 武富 隆 佐賀・鹿島実
84kg級 殿村明大 秋田・秋田商
96kg級 鈴木啓仁 京都・南京都
120kg級 山口 剛 岐阜・中津商

 こだれだけのメンバーがそろった中、早大に欠けていることは(強豪チームに復活してからの)“歴史”だ。太田コーチは語る。「今年で就任10年目。長かったと思うけど、歴史にしたら、ほんの一瞬。僕は日体大出身ですが、先日の試合で、前田や松本篤史(フリー84s級世界代表)らの組み手を見ていると、本当に歴史を感じます」。自身が日体大で培ったことを、後輩たちが同じように習得しているのを見て、強さの秘密が歴史にあると痛感した。

 でも、「早大にも歴史ができ始めている。ここ数年はOBたちが頻繁に練習に来てくれるようになった」。卒業して、“プロ”になってレスリングを続ける選手はもちろん、職についても現役を続ける選手が多くなった。「日体大が強いのは、練習をともにするOBの存在が大きいからね」。早大もそのようなシステムができつつある。

 2005年にブロック優勝してから5年。今年こそ、優勝なるか? 


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