▲一覧ページへ戻る

【特集】巻き返しなるか、国内の闘いを見つめた世界チャンピオン…女子63kg級・西牧未央(至学館大大学院)【2010年4月24日】

(文=増渕由気子)
 

 かつて伊調馨(ALSOK綜合警備保障)の“超安定政権”だった日本の女子63kg級。現在は女子で最も過酷な階級となった。現役世界女王は、昨年2度目の世界制覇を成し遂げた西牧未央(至学館大大学院、左写真=昨年9月に世界V2達成)だが、昨年12月の全日本選手権で2008年北京五輪金メダルの伊調馨が休養から復帰。さらに、元55・59kg級世界女王の山本聖子(スポーツビズ)が階級を上げて参戦してきたからだ。

 全日本選手権では、北京五輪後初の国内復帰戦となった伊調より、アジア選手権、ゴールデンGP決勝大会、世界選手権を制して世界女王として確実に成長した西牧が有利に思えた。西牧も、ここぞとばかりに “政権交代”をもくろんだが、その夢は決勝ではかなく消えた。試合巧者の伊調が西牧を2−0のストレートで破った。

■スコアは互角だが、ペースを握られっぱなしだった全日本選手権決勝

 試合後、西牧は表彰台で号泣した。「試合直後は、馨さんのパターンにはまってしまったことが悔しかった」と振り返る。試合内容は第1・2ピリオドともお互いにテクニカルポイントがなく、第1ピリオドのクリンチの優先権は伊調、第2ピリオドは西牧に出た。

 伊調が好機を確実にものにしたのに対し、西牧は優先権を生かせずに伊調にポイントを与えてしまい、敗れてしまった
(右写真)。西牧はこの試合を「惜しかった」と位置づけていない。「2分間、無失点でしたが、ずっと馨さんのペースだった。自分が弱かった」と、伊調を超えるには、まだまだやることがあると再確認したからだ。

 全日本チャンピオンから陥落した西牧は、冬の遠征メンバーに召集されず、3月のワールドカップ(W杯=中国)のメンバーにも入らなかった。しかし、「今、自分にとって日本一になることが重要なので、(ナショナルチーム)に選ばれなかったことに関しては、まったく気にしてないです」と言う。

 すでに世界を2度制した西牧にとって、世界の勢力図や強豪選手の闘い方は手に取るように分かる。見聞を広めるための海外遠征は、もはや西牧には必要がない。

■今冬の山本聖子と伊調馨の海外での活躍には、焦りはなし

 それよりも、世界に出るためには、「日本一」のハードルを越えなければいけない試練が待っている。黒星を喫した全日本選手権から約4ヶ月間、西牧は、国内だけを見つめた。「自分が負けるパターンを考えた」と自身の弱点を洗い出し、「ミスを少なくするように」をモットーに練習を積んだ
(左写真=この冬は国内で練習を積んだ西牧)

 その間、ライバルの伊調や山本は海外遠征や試合で成績を収めていた。山本は1月末のヤリギン国際大会(ロシア)で優勝。組みついてくる世界の63kg級では力負けするのでは、という見方を一掃した。伊調もW杯では無敗の4勝を挙げ、2大会連続五輪金メダルの腕前がさびついてないことを証明した。

 もっとも、その活躍を見ても西牧は冷静だ。「2人とも強いので、海外では普通に勝つと思った」と両者の活躍による動揺や焦りは一切なし。5月の明治乳業杯全日本選抜(女子63kg級は3日)で勝つことだけ考えている。

 全日本選抜選手権で予想されるシードからすれば、準決勝で山本聖子との対戦が濃厚だ。だが、特別な想いはない。「自分の動きをするだけ」。現役世界チャンピオンの誇りにかけ、西牧が今度こそ新しい時代の扉をこじあけるか―。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
《西牧の2強との対戦成績》
  2006年ジャパンビバレッジクイーンズカップ ●[0−2(0-2=2:13,2-3]山本聖子
  2009年天皇杯全日本選手権      ●[0−2(0-1=2:06,0-1=2:29)]伊調馨


  ▲一覧ページへ戻る