【特集】３階級で１年生（新２年生）が制す…山崎達哉、高橋侑希、山本康稀【2010年３月30日】
（文＝増渕由気子、撮影＝飯島隆）
昨年の奈良インターハイで１年生チャンピオンが誕生し、一気に注目度が高まった50㎏級と55㎏級。風間杯全国高校選抜大会ではその２階級に加え、96kg級で１年生（新２年生）が優勝した。
■関東高校選抜大会V逸の悔しさをはね返す…50kg級・山崎達哉
50㎏級の山崎達哉（東京・自由ヶ丘）は、インターハイ、国体と優勝したが、優勝必然と言われた１月の関東高校選抜大会はフォールを認められずに逆転負けを喫し２位に終わった。「悔しくてけっこう落ち込みました」。それだけに「全国では勝つ」と気を吐いて乗り込んできた。
その山崎を倒した鹿島学園の阿部宏隆は、３回戦で負傷のため棄権。山崎の「全国大会で直接リベンジする」という青写真は実現できなかった。しかし、ライバルは阿部だけではない。山崎を倒すためにしのぎを削って決勝に進出してきたのは、2007・08年全国中学生選手権を連覇した太田忍（山口・柳井）。昨年のインターハイ決勝と同じ顔合わせとなった（右写真）。
山崎はスピードを生かしたタックルで、太田の懐にもぐりこんでテークダウンに成功。第１ピリオドは２－０とあっさり奪ったが、第２ピリオド、10kgに及ぶ減量をしている太田がパワーで対抗。強烈ながぶり返しを決めるなど力で山崎をねじ伏せた。
勝負の第３ピリオド。山崎は３－１とリードを奪われるが、こん身のアンクルホールドを決めて２点を奪い、３－３ながらラストポイントで勝利した。優勝を決めると、涙がほほを伝った。観客席にいたゴールドキッズ時代のコーチ、成国晶子さんの姿を見つけると、おえつを漏らすほど。「ホッとした」。まだまだ心は１年生。初々しいうれし涙だった。
「今回は相手に合わせてしまった。もっと自分の形でレスリングをしたい」。１年生ですでに３冠の山崎は試合内容、結果ともにこだわって次のステップに挑む。そのステップとは４月のＪＯＣ杯ジュニアオリンピックだ。カデットの54㎏級に出場する予定で、ともに１年生王者になった高橋侑希（三重・いなべ総合）も同階級に参戦する。優勝者の写真撮影時に笑顔で隣同士に並んだ山崎と高橋。この勝負の行方も楽しみだ。
■危ないシーンも多かったが、最後は優勝…55kg級・高橋侑希
その55㎏級の高橋は、昨年９月の新潟国体の決勝では、インターハイで勝った森下の３年生の意地に屈して２位に終わったが、スーパー１年生というアピールを十分にした１年だった。だが、急に目立ったことが高橋のレスリングに微妙なゆがみを生んでしまった。
「１年生で優勝したのだから、もう次も優勝して当然だね」―。２、３年生を押しのけて高校王者になった高橋は、周囲にこのような声をよくかけられるようになった。「自分としては挑戦者としていたいのに」。周囲の声により、強い気持ちを持つことがとても辛かった半年だったという（左写真＝決勝で闘う高橋）。
高橋がマットに上がると会場の目が一気に集まる。高橋が危ない状況になると、会場に大きなどよめきが起こるほど、いまや高校ナンバーワンの注目を浴びる存在だ。
「勝たなくちゃ」「勝って当たりまえ」。この気持ちがレスリングにも出てしまった。３回戦の黒沢翔（茨城・鹿島学園）戦は、ストレート勝ちながらも内容は５－４、６－５の大接戦。得意技のガッツレンチに持ち込むためにも、テークダウンを狙う高橋だったが、突っ込みすぎてそのままフォール体勢に追い込まれるなど、「失点はすべて自分のミス」だった。
準決勝の朝比奈健太（茨城・霞ヶ浦）にも第１ピリオドはビッグポイント差での勝利。あっさり勝負を決めた１、２回戦とは逆に、２日目の３回戦からは全試合失点と内容はふるわなかった。
「森下先輩に会って、『何回会場を沸かせれば気が済むの？』と言われてしまいました。もっと無難に冷静に勝ちたいです」と優勝にも苦笑いするしかなかった。この反省を胸に、４月からは２年生。「今年の目標は五冠王です。昨年３位だったグレコも勝ちます！」と高橋。４月のＪＯＣ杯でもスーパー高校生ぶりを発揮できるか。
■全国中学生王者の96kg級・山本康稀も１年生王者に
96㎏級の山本康稀（埼玉・花咲徳栄）もルーキーで全国チャンピオンになった。技術があれば体力の差をカバーできる軽量級とは違って、パワーがものを言う重量級で、１年生が勝ち上がるのは至難のことだ。
だが、全国中学生チャンピオンの肩書きを持つ山本は、キッズ時代から磨いたタックルで先輩選手を翻ろう。昨年、花咲徳栄を支えた高校三冠王の細谷翔太朗や岡倫之からの「頑張れ」という励ましも力に加えて、決勝でも大爆発。３点タックルを何度も決めて初優勝を飾った（右写真＝左から山崎、山本、高橋）。