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【特集】“死のブロック”を勝ち抜いて霞ヶ浦がV18を達成【2010年3月28日】

(文=増渕由気子、写真=飯島隆)  
 

 風間杯全国高校選抜大会の学校対抗戦は、昨年王者の霞ヶ浦(茨城)が決勝で飛龍(静岡)を破り、2年連続18度目の優勝を飾った(右写真=優勝を決めた霞ヶ浦)

 昨年は全5試合中、落とした黒星は1つのみという驚異的な勝率で優勝。大沢友博監督は優勝後、「今日は100点をあげたい」と生徒を褒めちぎった。その快挙を支えたメンバーは74s級の坂本悠太と120s級の前川勝利しか残っておらず、レギュラーメンバーはニューフェースばかり。

 昨年はインターハイV20という不滅の金字塔を打ち立てており、大澤監督は一区切りがついて、冗談交じりに「もう引退しようかな」と気持ちのモチベーションが切れたかのような発言もしていた。

 だが、「新しいチームでまた優勝する」という新たな目標に気がついたとき、本心は昨年以上に燃えていた。そのモチベーションをアップさせたのが、同大会の組み合わせだ。

■“死のブロック”の組み合わせが決まって発奮…大沢友博監督

 関東1位のシード権を得て入ったCブロックは、まさに“死のブロック”。九州1位の鹿屋中央、関東ベスト8という肩書きで出場した花咲徳栄は昨年のインターハイで2位の実績を持ち、関東2位の実力を持つと考えていい。東海1位の岐阜工(岐阜)に、東海3位だが過去に実績のある岐南工(岐阜)。

 「1回戦からいいチームと対戦できた」と、敵の実力を認めた上での闘いが始まった。 今年の作戦は、「55s級、74s級、84s級で3勝を挙げて、120s級の前川につなぐ」。軽量級チームから一転し、今年は重量級で勝負をかける布陣で臨んだ。

 だが、準々決勝の花咲徳栄戦では、1勝を確実視していた55s級の朝比奈健人が杉山雄介にストレート負け。花咲徳栄とはギリギリの勝負になることが目に見えていたため、「さすがに、負けを覚悟しました」と大沢監督も腹をくくった。そのピンチを救ってくれたのが、66s級の井出だった。1月の関東高校選抜大会でフォール負けを喫した飯島拓也にストレートでリベンジ達成。朝比奈の黒星を帳消しにする3勝目を挙げて、エースの坂本に勝負を回し、勝利へつなげた。

■新チームの課題は、自信を持たせること

 新チームで一番大変だったのは、高校での実績がまだない選手たちの気持ちを持ち上げることだった。50s級・小宮佑介、55s級・朝比奈健人、60s級・古谷和樹、66s級・井出倫太郎という今年の軽量級ラインナップは、昨年高校MVPの森下史崇、全国高校選抜王者の砂川航祐らとの練習では「ボコボコにされて、ポイントは取れない状況」(大沢監督)。

 そのため、「実力的には他の学校の選手より強い」はずが、自信が持てずに試合で実力を発揮できない状況が多かった。しかし、勝つことは自信をもたらしてくれる。決勝戦で金星を挙げたのは、準々決勝でチームを救った井出倫太郎だった
(右写真)

今年の飛龍は軽量級主体のチームで、霞ヶ浦とは逆の布陣。50s級、60s級はフォールで屈してしまう。1勝2敗とリードされた形で井出に出番が回った。1−1で迎えた第3ピリオド。残り30秒を切った時点で相手に押し出されて1点のビハインド。

 だが残り15秒で執念の片足タックルから場外ポイントをゲットし、貴重な白星を勝ち取った。マットを降りた井出に大沢監督は「よくやった。これで決まった」と声をかけ、勝利を確信した。

■遠征に遠征を重ねた強化が実った

 関東選抜でふがいないフォール負けを喫し、「もう、お前は使わない」とその後、補欠に降格させられた井出が今回のキーマンになった。「レスリングが落ちついてきたし、気持ちが切り替わったんでしょう」と短期間での成長に大沢監督も満足げだ。

 「今回の優勝はうれしい。関東から2カ月。遠征に遠征を重ねて強化してきた。今回は子供たちも私も頑張りました」と感無量の優勝だ。でも大澤監督が白い歯をこぼしたのはわずか数分間だけ。「個人戦がありますから。最低でも2つは優勝」とキリリと口元を結んで再びセコンドへ戻っていった。


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