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【特集】待望のスター誕生! シニア国際大会初参戦の伊藤友莉香が初優勝【2009年5月5日】

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 待ちに待ったスターが2009年アジア選手権(タイ・パタヤ)で誕生した。大会第4日に行われた女子59s級で伊藤友莉香(環太平洋大)が4試合を勝ち抜いて初出場、初優勝と遂げた。

 伊藤は、今年4月から環太平洋大に入学したばかりの大学生。昨年まではカデットの部に出場し、アジアカデットで2度優勝している。だが、シニアの登竜門となるジュニアにはまだ参戦していない。4月の全日本女子選手権で全日本チャンピオンの山名慧(アイシン・エイダブリュ)や昨年のアジア選手権3位の梶田瑞華(中京女大)を下して決勝に進出したことで、栄和人女子強化委員長にジュニア代表を飛び越えて、シニア代表に大抜てきされた。

 「信じられない」と代表入りした実感がわかないまま、全日本合宿に突入。ちびっ子からレスリング歴はあるが、全日本代表メンバーとは挨拶する程度で気心知れた間柄ではなかった。嘉戸洋環太平洋大監督が「試合前の調整から学んできてほしい」と話したように、伊藤にとっては、全日本合宿からが”アジア選手権”の始まりだった。「不安ばかりだった」という気持ちのままタイへ出発。

 だが伊藤の不安は自然と解消される。「すごく先輩たちがいい人たちで、精神的に助けてくれました」とすぐに全日本メンバーに溶け込んだ。宿泊所は女子48s級の坂本真喜子(自衛隊)と同じになり、一流選手の調整方法を間近に見ることができたことがよかった。


初シニア遠征で次々と試練を克服

 だが、伊藤に次から次へと難題は降ってきた。5月のタイは夏季で気温は常に30度を超えていた。過酷な中での調整を「苦しかった」と伊藤は振り返る。

 さらなる伊藤にかけらられたプレッシャーは、スケジュールの問題だった。女子の日程は55s級が大会第2日に行われ、59s級以外の5階級が第3日に開催された。日本はエントリーした階級ですべてメダルを獲得。伊藤には「女子全階級メダル」というプレッシャーがかかってしまったのだ。

 シニア初参戦の試練はまだあった。試合抽選では、大会運営のごだごだに巻き込まれて、抽選できない状況になった。第3者の指摘があって回避されたが、海外ならではのハプニングも経験した。

 それでも伊藤は自分を見失わなかった。「シニアは体験していないから、変に考えすぎないでやりました。だから空回りすることもありませんでした」。

 試合では、シニア初参戦とは思えない堂々としたレスリングを披露。持ち味である”攻撃的レスリング”を武器にタックルを決めてから、すぐさまローリングに移行して点数を重ねた。積極的に攻めるには理由がある。「クリンチが嫌なんです。今までやってきたことがすべてボールで決まってしまうじゃないですか」。そのためにも序盤から、”タックル”を武器に攻めた。


アジアを制し、次は”世界ジュニア”

 タックルを多用するために返し技を食らうこともあったが、「返されたら、また取ればいい」とプラス思考で、ひるまずにタックルを仕掛け、ポイントにつなげた。そのためスコアはほとんどがテクニカルフォール勝ち。「伊藤がこのまま成長してくれれば」と栄女子強化委員長も”超新星”に満足顔だった。

 もともと、レスリングを始めたきっかけは、弟が吹田市民教室に通い、故・押立吉男代表に「お姉ちゃんもマット運動くらいやったら?」と勧められたから。成績を残すようになった中学生からレスリングの楽しさを覚え、のめりこんだ。

 アジアチャンピオンの実感がないという伊藤。でもハッキリと未来は見えた。「オリンピックへの道が見えました」。今後は積極的に海外に出る予定。6月のゴールデングランプリの出場も検討中だ。「今年は世界ジュニアで優勝します」。日本に現れた超新星・伊藤の快進撃から目が離せない。

(文・撮影=増渕由気子)