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【特集】女子63s級とビーチ軽量級で大会2冠を狙う西牧未央【2009年5月4日】

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 アジア選手権(タイ・パタヤ)第2日が5月4日、当地のアンバサダ・シティホテル・パタヤで行われ、女子63s級・西牧未央(中京女大)が決勝戦で地元・タイのトンカン・ウィライワンを下して優勝を遂げた。

 昨年10月、西牧は東京で行われた世界女子選手権の五輪採用階級である63s級で世界女王に輝いた。それまで59s級から67s級まで幅広く出場していたが、世界チャンピオンの座に就き、ハッキリとアテネ、北京五輪金メダリストで大学の先輩でもある伊調馨(ALSOK綜合警備保障)を”ライバル”として意識し始めた。


世界チャンピオンの肩書きでアジア制す

   世界チャンピオンとして乗り込んだアジア選手権。初戦(2回戦)の相手はインドで、西牧はインド独特の柔らかく、しつこいレスリングにてこずってしまう。がぶられるが、下から圧力をかけて場外ポイントを獲得。第2ピリオドもスタンドでもつれたところで、押しまけず、場外ポイントで決勝点を挙げた。

 準決勝のベトナムのルオング・チーチェンは以前に対戦経験があった。「タックル返しに来るから気をつけないと」と対策も万全だったはずだが、「試合になったら忘れてしまった」と、突っ込みすぎたタックルを返されて失点。第1ピリオドは9−4と点の取り合いになった。だが、第2ピリオドはタックルを修正し、確実にグラウンドに持ち込んでフォール勝ちを収めた。

 決勝戦は、中国をフォールで下したタイとの対戦。トンカンは、以前に安部学院で合宿を張ったことがあり、練習した経験があった選手だ。そのため、相手の手の内はわかっていた。「普通にやれば勝てると思った」と難なくフォールし、世界チャンピオンの貫禄を見せた。


”絶対女王”伊調馨に追いつくためには

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 世界に続いて、アジアを制した西牧だが、その肩書きに満足感はない。実際、3月のW杯では中国や欧州の選手に黒星を喫しており、西牧自身が「(世界選手権は)ベストメンバーではなかったし、馨先輩と同じ”世界女王”ではない」世界での自分の位置を把握している。

 「(強豪があまり出なかった)アジア選手権。これはこれでいいと思うけど、6月のゴールデングランプリの予選や、ロシアの遠征をこなして、強い選手との経験を積みたい。それで世界選手権までに勝ち方を見つけたい」と今後のプランを話した。

 スタンド、グラウンドともに完璧な伊調に対して、西牧は「グラウンドのディフェンスは自信がない。スタンドでの組み手がタックルと連動していないし、監督から、タックルが入ってから潰される状態になっていると指摘された」と課題は山積みと言う。「世界チャンピオンって言われるのはうれしいけど、プレッシャーに感じるときもありますね」。西牧の中では、まだまだ”挑戦者”の意識が高いようだ。

 伊調と自身の違いを問うと、「馨先輩は、ずっと世界で優勝してきて、自分が一番という負けられれない思いが、誰よりも強いです」と話した。さらに、伊調は世界チャンピオンのプライドに加えて、姉・千春(ALSOK綜合警備保障)との絆もあった。「背負うものが、まだ全然違います」と西牧は気持ちの面の差も自覚している。

 だが、伊調は今シーズンはカナダに留学し、レスリングは休養中。いまや西牧は、日本女子重量級の中心選手だ。この日も日本チームで唯一、表彰台の真ん中に立った。「一度チャンピオンになったから、負けられないです」。その勢いで9月の世界選手権(デンマーク)で”真の女王”を目指す。

 アジア選手権での大役を終えた西牧だが、まだパタヤで使命が残っている。最終日に行われるビーチレスリングだ。レスリングで1大会で2度優勝のチャンスがあることは珍しい。「ビーチでも優勝して二冠を狙います」とキッパリ。西牧は2度目の君が代を聞くことができるのか―。  

(文・撮影=増渕由気子)