アジア選手権(タイ・パタヤ)第1日が5月2日、当地のアンバサダ・シティホテル・パタヤで行われ、男子グレコローマン55s級で長谷川恒平(福一漁業)が4試合を勝ち抜いて初優勝を遂げた。長谷川は、2月の冬の遠征から国際大会3連続金メダルを獲得している。
ロンドン五輪に向けて光が見えてきた。冬の遠征で頭角を現した長谷川が、大陸選手権でも結果を残した。だが、冬の遠征での快挙も「強い選手が出てこなかった。アジアのほうがグレコローマンは強い」と、長谷川は、イランや韓国、カザフスタンなどの強豪がひしめくアジア選手権前に自分のレベルを過信することなく準備をしてきた。
北京五輪出場がかかった昨年のアジア選手権(韓国・済州島)は、同ブロックに2005年から3年連続世界チャンピオンになったハミド・スーリアン(イラン)が入り、3位入賞も五輪の切符に手が届かなかった。周囲は「反対ブロックに入れば…」と組み合わせの”運”を悔やんだ。
今年の抽選も、長谷川はブロックの一番下を引き、韓国、キルギス、イラン、中国、カザフスタンと実績のある強豪国がずらりと並び、反対ブロックになると、タイ、ラオス、北朝鮮、インドと北京五輪でメダルなしの国が並んだ。大会第1日の中で、「一番大変な組み合わせ」とコーチ陣は話したが、長谷川は「いい組み合わせに入った」とサラリと言ってのけた。
「ヨーロッパとアジアのスタイルは違うし、(強い国と対戦しないと)経験にならない。五輪などの予選でもないし、先を考えたとき、自分の身になるほうがいいです」。
真価の問われるアジア選手権だったが、強豪・ウズベキスタンが世界中で猛威をふるっている豚インフルエンザの影響で国が海外遠征を禁止したため、欠場。スーリアンのエントリーもなし。カザフスタンも「きっと若手でしょう」と長谷川が期待したレベルの選手ではなかった。
カザフスタン、ベトナム、イラン、そしてインドを倒してアジアのチャンピオンになった長谷川。「世界選手権に出ているような選手は出場しなかったし、どの国も世代交代で新しい選手だった」と試合後は冷静。ハイレベルの選手を倒したという満足感はなかった。ただ、無失点だったことに触れると「よかった」と満足していた様子。
「若手ばかりで…」と勢力図が見えない大会だったが、世界から見れば、長谷川も同じ”若手”の一人だ。この日の場内コールでは、「はせがわ・こうへい」が「はせがわ・こうはい」と終始間違えられていた。「松本慎吾先輩や、笹本睦先輩は、いつも周りに”マツモト、マツモト”、”ササモト、ササモト”と言われていた」と世界でも存在感があったという。「自分も”ハセガワ、ハセガワ”って言われたいです」と、9月の世界選手権(デンマーク)で活躍し、世界で名のある選手に成長することを誓った。
世界の頂点を目指すために、十分な経験は積めた。「次の目標は全日本選抜選手権(6月21〜22日、東京・代々木第二体育館)で優勝し、ゴールデングランプリ決勝(7月17〜19日、アゼルバイジャン)で優勝、そして世界選手権でメダルを取ることです」と”世界レベル”になったことにもかかわらず、国内の大会を真っ先に挙げた。
「日本人のレベルが上がってきています。今日やったアジアの選手より、日本人の方が強いです。たぶん、僕が出なくても優勝したんじゃないですか」。国内の大会もあなどらずに臨む長谷川に敵はなしか―。
(文・撮影=増渕由気子)