【特集】松本慎吾の穴を埋められるか? 雑草からはい上がった下屋敷圭貴(男子フリースタイル96kg級・日体大)【2009年1月17日】



 昨年12月の天皇杯全日本選手権フリースタイル96s級は、2004年アテネ&2008年北京両五輪のグレコローマン84s級の松本慎吾(一宮運輸)が若手を押しのけて優勝を飾った。

 両スタイルをまたいで大会10連覇を飾った松本だが、ナショナルチームのグレコローマン・コーチに就任したことで、5月にタイ・パタヤで行われるアジア選手権の出場は見送る予定だ。その松本から日本代表権を譲り受けるのは、全日本選手権2位の下屋敷圭貴(日体大=左写真)が濃厚だ。

■雑草から一転、学生ラストイヤーで日本代表へ成長!

 下屋敷は、坂本日登美・真喜子姉妹(ともに自衛隊)が通ったことで有名な青森・八戸キッズ教室でレスリングを始め、青森・光星学院高を経て、現在、日体大の4年生。学生ラストシーズンは、日体大の重量級の柱として活躍し、全日本学生選手権ではフリースタイル96s級で初優勝した。下屋敷にとって生涯初の個人タイトル。

 11月の全日本大学選手権はチーム事情で120kg級に出場し、それでも3位に入って日体大団体優勝に貢献した。「高校時代もタイトルがなく、(インカレ優勝はレスリングを)やり切ったなと思った」という下屋敷にとって、学生チャンピオンの称号は、2012年ロンドン五輪へのステップというより、レスリング競技の集大成、つまり有終の美という意識が強かった。

 それが全日本2位になったことで状況が一転。試合の翌日、松本から「アジア選手権はお前だ」という旨を伝えられ、日本代表として卒業後も日体大でレスリングを続けることを決意した。

 高校時代から無冠の下屋敷は、ジュニア時代も含めてナショナル・チーム入りは初めて。「日本代表のシングレットを着たことがないです」と初々しく話す一方で、「(松本から代表権を譲り受けるという)日本代表の責任感はあります。やるからには全力を出してメダルを取りに行きたい」とアジア選手権を含む海外遠征での抱負を語った(右写真=全日本合宿で練習する下屋敷)

■千載一遇のチャンスを生かせるか!?

 1月9日から始まった全日本合宿で下屋敷の練習を見守った松本コーチは「体力がまだない。96s級の体じゃない」と一刀両断。通常体重が96kgを下回ってしまう下屋敷自身も「松本先輩より足りないものは体力、筋力、あとは気持ち…、全部です」と自分の状況を冷静に分析した。

 同級の全日本選抜選手権王者で昨年のアジア選手権代表の磯川孝生(山口県協会)にも、「2回対戦して子ども扱いされてしまった」と振り返り、今回のチャンスを生かさなければ先がないことも分かっている。

 それでも下屋敷は前を向く。「96s級の中ではスタミナはあると思う。3ピリオドをやっても疲れない自信があります。アジア選手権では3ピリオドを動き回るレスリングをしたい」。このチャンスを生かし、“96kg級に下屋敷あり”と存在感をアピールできるか―。

(文=増渕由気子)


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