【特集】吉田沙保里の勇姿にあこがれマットへ! 64歳の女子選手がデビュー…山田純子さん(太田章ク)【2009年1月日】



 日本のみならず世界の女子レスリングで、おそらく史上最年長と思われる64歳の選手がデビューした。全日本マスターズ選手権で、今年から新設された女子の部に出場した山田純子さん(東京・太田章レスリングクラブ=右写真の青)。

 2年前にレスリングを始め、週2回の練習を重ねての公式戦デビュー。エントリーは3選手だったが1人が棄権し、初戦が決勝戦。同じクラブの西村優美さんに敗れたものの、年齢差が27歳あることで順位はつけず、両者1位へ。「もう少し長くやっていたかった」と話し、来年も出場する予定だという。

■格闘技は未経験だが、マラソンや山岳で鍛えた足腰

 レスリングをやるきっかけは、2004年アテネ五輪で金メダルを取った吉田沙保里選手(現ALSOK綜合警備保障)の勇志を見たこと。指導している太田章さん(早大教)は「吉田選手の姿と自分の姿を重ねているんです」と説明する。

 若い時にやっていたスポーツはマラソン、山岳、水泳で、レスリングとは縁がなかった。その後、夫とともに飲食店(中華料理店〜ステーキ店)を経営。インターネット上でもいい評判を得るほどに店は繁盛した。忙しさの中にスポーツに打ち込む機会はなく、約30年がすぎた。

 しかし数年前に店を閉じ、人生の豊かさを求めて、早大が社会人を対象にして開講しているオープン・カレッジに通うことを決めた。最初は英会話の授業に通ったというが、思わしい進展はなく、自分に合わないと思った。

 そんな時に目に入ったのが、太田さんが講師のレスリング教室。アテネ五輪での吉田選手の闘いに感動していたことと、「楽しいレスリング、というキャッチフレーズにひかれた」との理由で方向転換。はまってしまったという。

 「大丈夫かな、と思いましたよ」とは太田さんの第一印象。「格闘技の経験があるのかと思ったら、それもないという。『エ!』と驚きました」と言う。しかしマラソンや山岳で足腰を鍛えていたせいか、下半身がしっかりしていて、何よりも熱心。これならできると思うのに、そう長い時間はかからなかった(左写真=西村さんのタックルにバランスを崩した山田さん)

 ところが、身長150cmなので周囲と釣り合いがとれない。そこで太田さんが運営しているキッズ教室「オータ・キッズ・クラブ」への参加を進め、1年前からオープン・カレッジとキッズ教室との2本立ての練習へ。体格も体力もぴったりの相手とともに練習メニューをしっかりこなしているという。

■「辛くても、それを乗り越えた時の充実感が、とても気持ちいい」

 「レスリングを始めてから、汗をかくことがどんなにいいかを実感します。体の芯から汗が出て楽しいです。無酸素運動になる時があるわけですけど、辛くてもそれを乗り越えた時の充実感が、とても気持ちいいです」。試合には負けたものの、レスリングの魅力を熱く話す山田さん。その勇志を見るために札幌からわざわざ上京した長女夫妻にねぎらわれ、満足そうに試合を振り返った。

 周囲からは「10年は続けろ」と言われているという。その答えを聞くと、「ずば抜けたものはないけれど、ひとたび始めたら長く続ける性格です。ですから…」と、今後も練習を続け、参加していくことを明らかにした(右写真=太田章クの選手たちとともに)

 男子では米盛勝義さんが今回で「83歳で出場」となり、当分破られそうにない自己の持つ最年長出場の記録を更新した。今年からスタートした女子でも、早くも当分破られそうにない大記録が打ち立てられた。自己の記録をどこまで伸ばしていけるか? 山田さんの記録を破る選手が、いずれは出てくるのか? 興味が尽きない全日本マスターズ選手権の今後だ。

(文・撮影=樋口郁夫)


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