【特集】来日したアレクサンダー・カレリン氏(ロシア)に聞く【2009年1月31日】



 外務省の招待で来日し、日本協会の要請を受けて臨時レスリング教室を開いた五輪V3の不滅のレスラー、アレクサンダー・カレリン氏(ロシア=右写真)。指導は1時間半にも満たないわずかな時間だったが、まだ現役ででも通用する強さの一端を見せてくれ、日本選手に大いに刺激を与えてくれた。

 カレリン氏に現況や日本のレスリングについて聞いた(教室で選手から出た質疑応答と報道陣の囲み取材での質疑応答を組み合わせています)。

※参考記事=2002年9月・インタビュー2006年9月・インタビュー


■日本の練習環境を賞賛

 ――日本のスポーツ界の基地でもあるナショナルトレーニングセンター(NTC)を視察した感想は?

 「効果的につくってある素晴らしい施設だと感じました。隣にはスポーツ医科学を研究する施設(国立スポーツ科学センター=JISS)があり、それも合理的でいいことだと思います」

 ――ロシアのレスリングの練習施設はどんなものでしょうか。

 「モスクワに1980年モスクワ五輪用に作られたレスリング場がありますが、やや古くなってしまいましたね。3年前にソチ(黒海沿岸の都市)に8面マットがある立派な施設ができました。他に私の故郷のノボシビルスクに6面マットの練習場があります。北京五輪の代表選手はここで練習したあと、北京へ向かいました」

 ――きょう日本選手に指導した感想は?

 「日本のコーチ達の何人かは現役時代に一緒に練習したことがあり、いい選手であることをよく知ってます。そんなコーチが指導しているのだから、今の日本選手は国際舞台でもいいパフォーマンスを見せてくれる選手ばかりだと思う。今回教えたことをしっかり吸収してくれると思います」(左写真=グレコローマン96kg級全日本王者の北村克哉選手にカレリンズ・リフトを仕掛けるカレリン氏)

 ――ロシアの国会議員としてお忙しいと思いますが、レスリングの指導もやっているのでしょうか。

 「頻繁にやっています」

 ――ロシア以外の国で教えたのは初めてですか?

 「いえ、いろんな国で教えています。今回は現役時代から知っているコーチがいて、やりやすかったです。日本には伝統的に1対1でやる格闘技がある(相撲や柔道?)。私の教えたこともきちんと理解してもらえたと確信しています」

 ――現役時代の体型をほぼ維持しているのは、そうした理由からですか?

 「自分自身のトレーニングもやっていますからね。きょうみたいなマスターコース(指導)が私の健康法です」

■プレッシャーはあったが、勝つと、勝つことが面白くなってきた

 ――チャンピオンでいた時、プレッシャーは感じていたのでしょうか。

 「ありました。ただ、より大きな舞台での勝利を目指して練習し、実際に勝つと、勝つことが面白くなってもきました」

 ――最近はレスリングを引退したあと、総合格闘技に行く選手が多くなっています。総合で闘おうとは考えなかったのでしょうか。

 「前田(日明)と1回闘っています(1999年2月)。1回で十分です。オリンピックで勝つことを考えてやっていたので、総合へ行こうという気持ちはありませんでした」

 ――現役を離れてから、身体的な変化はありますか?

 「年をとりました(笑)」

 ――日本のレスリング界との交流や指導への気持ちはいかがですか?

 「今後もやりたいと思います」(右写真=チューブを使ったトレーニングを披露)

 ――今の国際経済危機はロシアのスポーツ界でも影響ありますか?

 「今は耐えている時です。世界経済の枠組みの中にロシアもあります。危機をロシアだけが避けることはできません。危機状況を覚悟し、それを克服するようにやらねばなりません。議会としても、この経済危機が国民にとって痛みのないものであるように努力しています」

■上達することにどん欲になってほしい!

 ――日本は2016年のオリンピック招致を目指しています。どう思いますか?

 「今回の滞在中にそれそれに関係する施設を見せてもらいました。すばらしいと思います。いい印象を持ちました。ロシアのオリンピック委員会に伝えておこうと思います。オリンピック開催にあたって、これだ、というユニークなものがほしいですね」

 ――日本の重量級は世界で結果を出していませんが、どこを変えていかばいいのでしょうか。

 「女子ではオリンピックで2度続けてメダルを取った選手(浜口京子)がいる。その練習を学べばいいのではないでしょうか。日本が強かった時代のことをもう一度研究すれば、答が出てくると思います。いいコーチがたくさんいるし、日本のレスリング協会は世界でも素晴らしい組織だと思います。みんなでしっかり研究すれば活路は開けるでしょう。日本がかつての栄光を取り戻すことは十分に可能だと思います」

 ――日本選手たちにこれだけは、というメッセージを。

 「レスリング教室でほとんど言いましたが、上達することにどん欲になってほしいと思います」


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