【特集】トップ選手の強化ばかりではない自衛隊。全国から161選手が集まる大会開催で普及にも尽力【2009年3月3日】



 3人の五輪金メダリストを筆頭に、世界王者や五輪代表選手、全日本王者を数多く輩出して日本のレスリングを支えてきた自衛隊。レスリング界で数少ないプロ集団と言える存在だが、力を入れているのは世界へ闘いを挑むトップ選手の育成だけではない、レスリングの普及と理解を求め、地道な啓蒙活動にも力を入れていることは、意外に知られていない。

 そのひとつが、毎年この時期に行われる全自衛隊レスリング選手権の開催だ。地方駐屯地の自衛隊員を中心に、神奈川・少年工科学校の高校選手、防衛大学校や防衛医大の選手など全国に散らばるレスリング愛好者のための大会で、この日ばかりは体育学校のエリート選手が会場設営や審判など裏方に回り、大会運営を支える。

■地方の駐屯地では砂の上で練習

 15回目となる今年は、2月28日と3月1日に体育学校のある朝霞駐屯地の体育館で開催され(団体戦・個人戦ともフリースタイル)、大会史上最多の161選手が参加。74kg級などは40選手が参加し、全国社会人オープン選手権より多い選手が出場した。マットが昨年までの2面から3面に増え(右写真)、東日本学生連盟に審判の応援を求めたほど。

 初心者が圧倒的に多いが、体育学校OBもいて準決勝、決勝ともなるとかなりハイレベルな闘いが展開される。今年は横須賀、横田、佐世保の米軍チームも参加し、国際性も出てきた。来年以降、どんな大会に発展するだろうか。

 全国から愛好者が集まるとはいえ、各駐屯地にレスリング場があるわけではなく、レスリングマットなどないところばかりだという。柔道の畳のある駐屯地は多いので、その上に体操用のマットを敷いて練習するなどは、まだいい方。芝生や砂の上で練習し、その成果を試すために出場してくるチームも少なくない。

 朝霞までの移動も、マイクロバスならまだましな方。自衛隊のトラックに乗って駆けつけるチームもある。こうした苦労を乗り越えてでも大会に参加したいという選手が増えていることは、レスリング界の大きな財産と考えるべきだろう。

■マットの上で汗を流した選手が、いずれはレスリングのサポーターへ

 体育学校レスリング班の宮原厚次監督(4月から体育学校第二教育課教育班長に昇進予定=後任は伊藤広道コーチ)は「レスリングの普及広報に一役かっていると自負しています」と胸を張る。参加するのはレスリングのOBばかりではなく、自衛隊に入ってから誘われてレスリングを始めた人もいる。アスリートとしてトップを極めることはできなくとも、「レスリングを理解し、サポーターとしてレスリングを支えてくれるようになるはずです」と言う。練習の成果を試してもらう場であるとともに、レスリング・ファミリーの育成を目的としている大会でもある。

 レスリングが一般受けしない理由のひとつに、ルールが難しいということが挙げられる。実際にやってみることでルールも理解できる。こうした人を増やすことは、競技人口の増加のみならず、応援の多さにもつながっていくはず。それは日本のレスリング界の大きなエネルギーになっていく。

 「自衛隊は地道な普及活動に力を入れていることも見てくださいね」と宮原監督。全日本マスターズ選手権など生涯スポーツとしてのレスリングが発展しているだけに、自衛隊の団結力で、その流れを力強くアシストしてほしい。

初参加の米軍からは7選手が出場し、1選手が優勝。 選手には炊き出しのサービス。シェフ長は伊藤広道・次期監督(左)。 レフェリーを務めるフリー60kg級全日本2位の大館信也選手。

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