【特集】オリンピック審判員を支える“脇役”に徹して12年…横山二朗審判員(千葉・佐倉西高教)【2009年3月27日】



 3月21〜22日に中国・太原で行われた女子ワールドカップ(W杯)で、斎藤修・日本協会審判委員長(千葉・佐倉南高教)とともに試合を裁いていたのが、4月から全国高体連専門部の審判副委員長に就任する横山二朗さん(千葉・佐倉西高教=右写真)。

 シニアの試合を裁くのは4年ぶり。「女子は、シニアでもそう難しい判定はないです。シニアだから特にどうということはなかったです。男子のシニアなら、こうはいかないでしょう。ジュニアでも微妙なケースがかなりあり、シニアならもっと判断に苦しむ場面があると思います」。無難にこなし、ホッと一息といったところだ。

■仕事とレフェリーの両立に「いいレスリング人生がおくれています」

 国際審判員(三級)となったのは、斎藤審判委員長と同じ1995年。翌年二級へ。97年に一級となり、とんとん拍子に上がっていった。しかし、それから12年間、一級のまま。斎藤審判員長とともに北京五輪のマットを踏んだ芦田隆治審判員(大阪・大阪工芸高教)、高体連専門部の藤本賢一審判委員長(奈良・二階堂高教教)とは日体大時代の同期生。「(2人は)能力があるんだから当然でしょ」と話し、出世した同期をうらやんだり、ライバル意識を燃やしたりすることなく、「自分のやるべきことをしっかりやっていきたい」と話す。

 この12年間、ジュニアやカデットの大会を裁くこが多かった。学校の忙しいポジションにいたため、夏休みや春休み以外は遠征に行くことが難しく、シニアの大会に行く機会を辞退せねばならないことが多かったからだ。そのため、特級審判(現在は「オリンピック審判」という名称に変更=日本は斎藤、芦田の2人)への昇格試験の大会に参加する機会に恵まれなかった。

 「国際審判になった以上、オリンピックの審判を目指し、技術を向上させるべきなのかもしれません。でも仕事をこなさなければ、レスリング活動はできません。それはそれで仕方ないでしょう」と話し、悔しいといった思いはない。「仕事と両立でき、充実した、幸せなレスリング人生をおくれています」と言い切る。

■審判員のスタートは「レスリングの指導の一環」

 そもそも、オリンピックの舞台を目指して審判の道に入ったのではない。千葉県の教員となり、県協会から「審判をやってほしい」と頼まれ、この道に入った。「レスリングの指導の一環でした。国際資格を取ろうという気持ちはなかったです」と言う。

 審判員会から推薦を受けて国際審判の資格を受けることになり、この時は「緊張した。しっかりやらねば」と思ったそうだが、三級から二級へ、そして二級から一級へ上がったのは、本人の希望ではなかった。また、協会からの指名があったわけでもなく、偶然の産物だった。

 審判の昇格試験を受けるには、日本協会審判員会からの推薦を受けたうえで臨むのが、明文化されてはいなかったが“内規”だった。ところが、昇格試験でもあった大会に行ったところ、顔見知りの国際レスリング連盟(FILA)の審判インストラクター、金益鐘さん(韓国)から「(昇格試験を)受けなさい。推薦状はなくてもいいから」と言われ、断り切れずにサイン。普通にレフェリーをやっていたら「昇格してしまった」と言う(左写真=米国と中国の試合をさばく横山審判員)

 無欲ゆえの昇格。だが、きちんとした手続きを経ての昇格ではなかったので、「周り(日本の審判委員会)には迷惑かけたと思うんです」と振り返る。仕事が忙しかったほか、この思いが、どん欲に上を目指さなかった一因なのかもしれない。

■現在の役目は委員長の補佐とルールの伝達、今後の課題は若手審判員の育成

 今後も特にオリンピックのマットを目指すといった気持ちはなく、「斎藤委員長を助けたい。(高体連専門部の)藤本委員長に協力したい」と、いわゆる“バイプレーヤー(バイレフェリー)”に徹していきたいという。

 現在、日本の一級審判は、横山審判員のほかは、福田耕治審判員(大阪・同志社香里高教)、酒井久治審判員(山梨・山梨学院大付高教)、吉武行寛審判員(福岡大職)の計4人。「みんな仕事を持っていて、職場に対して肩身の狭い思いをしながら遠征に参加している。多くの人間で手分けして日本の役目をこなさなければならない。そのためにも一級はキープしたい」と話す。自分が二級に落ちたら、他の審判員にしわ寄せがいくことになり、当然オリンピック審判にも影響する。

 ★オリンピック審判が要求される大会=欧州選手権、世界選手権、オリンピック
 ★一級以上の審判が要求される大会=ワールドカップ、欧州以外の大陸選手権、世界ジュニア選手権、大陸ジュニア選手権、大陸カデット選手権、ゴールデンGPなど

 二級審判員は2人しかいないため、二級審判員でも大丈夫な大会であっても一級審判員が駆り出されるケースもある。審判員の数が足りないのが現状である。「二級の2人には早く一級に上がってほしい。若手が出てきて、二級、一級に上がってほしい」と言う。

 また、ルールの変更に遅れをとってはならないという気持ちも強い。「インターネットのおかげで、改正ルールの文章はすぐに全国に流れるけれど、実際に見たことを持ち帰って伝える必要がある」と話し、国際審判員としての役目をまっとうする腹積もりだ(右写真:斎藤審判委員長=左=と横山審判員)

 日本チームの活躍を目の当たりにできる楽しみもある。「今回参加した8チームは、どこも若返っている。どんなふうに成長するか、楽しみです。日本もロンドン五輪に向けて多くの経験を積み、北京と同じかそれ以上の成績を残してほしい」と期待していた。

(文・写真=樋口郁夫)


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