【特集】団体Vの霞ヶ浦からは森下史崇、砂川航祐の2選手が優勝【2009年3月30日】



 風間杯全国高校選抜大会の個人決勝が3月29日、新潟県新潟市体育館で行われた。前日まで行われた学校対抗戦の5戦を34勝1敗、うち13フォール、クリンチなしという過去まれに見る大勝で2年ぶり17度目の優勝を遂げた霞ヶ浦(茨城)。団体戦で選手たちに「100点満点」をあげた大沢友博監督は、優勝の余韻に浸りながら「団体で優勝したメンバーたちが個人戦でいくつタイトルを取れるか楽しみです」と個人戦の活躍も期待していた。

■盤石の強さ見せた二世選手、森下史崇

 個人戦でも主力メンバーは強かった。減量がきつく、昨年インターハイで団体MVPに選ばれながら、個人戦の計量に間に合わなかった60s級の岩渕尚紀は惜しくも準々決勝で敗退。だが、そのほかの昨年インターハイ優勝メンバーの4人全員が決勝に進出し、55kg級の森下史崇(右写真)と66kg級の砂川航祐の2人が優勝した。

 「安心して試合を見ることができる」と大沢監督を言わしめた55s級の森下は、今大会も磐石。1失点も許さない完ぺきな内容で決勝まで勝ちあがり、決勝では持ち上げタックルから後方へ投げ落とす、通称“水車落とし”で5点を取り、勝負を決めた。昨年は決勝戦で悔し涙をのんだ大会で初優勝、そして55s級に階級アップしてからの初の全国タイトルと、初物ずくしに森下は思わず右手を突き上げて雄たけびを上げた。

 普段の体重も58kgにまで増え、体つきも55s級にふさわしくなってきた。森下は「まだ50s級のスピードでごまかしている部分がある」と言う反面、「だいぶ55s級のパワーに慣れてきた」と同階級でやっていく自信が出てきたようだ。決勝戦の最後に見せた大技は、大会で2度目。「持ち上がったからやってみた。練習ではそんなにやりません」と、器用さを見せた格好だ。

 1月の関東高校選抜大会時に大沢監督が心配していたローリングの欠点は、「今大会は1回も出なかった」と完ぺきに修正。昨年のインターハイから高校の大会では団体・個人を通じて1敗もしておらず、同世代では完全に突き抜けた存在になった。完ぺきだが、父で元学生王者の森下敏清さんに敢えて課題を挙げてもらうと、「クリンチに持ち込まれたくないから、もう少し早く攻めてほしいかな」と話した(左写真=3回戦でさく裂した水車落とし)

 森下は1992年3月生まれのため、4月のJOC杯は本来ならばカデットの部のエントリーとなる。だが、昨年12月に社会人の湯元進一(全日本王者)からポイントを奪った森下は、全日本王者を苦しめたことを自信に、大学生が主戦場のジュニアに参戦することを決めた(注・保護者の同意などがあれば、17歳でもジュニアに出場できる)。

 「大学生は力が強いけど、3位以内を目標にしたい」と目を輝かせた。優勝すれば世界ジュニア選手権へ、2位でもアジア・ジュニア選手権への出場がほぼ確定する。「世界で活躍できる」と大沢監督から太鼓判を押されている森下の高校ラストシーズンは、どんな金字塔が打ち立てられるのか?

■主将としてチームを引っ張った砂川航祐

 66kg級の砂川は初戦の第1ピリオドで2点を失ったものの、その後は失ポイント0の快進撃で優勝。主将の役目を見事に果たした。「最高の気分。個人戦の方は体がいうことを聞いてくれなかった。でも決勝まで進み、最後は気力で頑張りました」と、3日で10試合の激闘を振り返った。決勝の相手の花山和寛(愛媛・八幡浜工)は予想通りの相手。「パワーがあって苦しい闘いだった。勝因は、どのチームにも負けないだけの練習量だと思います」ときっぱり(右写真=花山を下して優勝の砂川)

 森下とともに昨年のレギュラーでもあったが、森下がインターハイ個人で優勝し、国体でも優勝したのに対し、砂川はインターハイ3回戦敗退、国体3位という成績。初の全国制覇に「やってきたことは間違いじゃなかった。大沢監督の指導を受けて、もっと強くなりたい」と、新たな闘志も湧いてきた様子だ。

 「新チームになった時はバラバラで、まとめていくのが大変だった。チームのことも、自分のことも、両方必死にやってきました」。その結果が団体、個人のW優勝。主将としての苦労があっただけに、喜びもひとしおといったところ。

 キッズレスリングの雄、吹田市民教室の出身。全国少年少女選手権では全国優勝はなかったが、中学へ進んでも吹田市民教室でレスリングを続け、2006年の全国中学生選手権優勝を経て、霞ヶ浦に入学した。「(高校進学は)自分で決めました。強いチームで鍛えたかった」と、親元を離れてレスリングにかけた。後押ししてくれた押立吉男代表は昨年10月に亡くなった。「幼稚園の頃からお世話になり、泣き虫だった自分を鍛えてくれた。いい報告をしようと思って頑張った」とのことで、天国の押立代表も喜んでくれていることだろう(右写真=両親にメダルをかけた砂川)

 「インターハイの団体は全試合7−0で勝つつもりでチームを盛りたてたい。個人ではインターハイ、国体で優勝したい」。最強軍団のチームリーダーが、さらに燃えようとしている。

(文・撮影=増渕由気子、樋口郁夫)


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